第151話「便乗」
「あーだったら俺の船に乗るか?ここいらにいる漁師は頭硬いからな。貴族のガキなんか乗せれるか!って断れると思うぞ」
「いいんですか?」
「ヨルバドフ様は漁師を引退されたと仰られていました。趣味で船にお乗りになってるいるのでしょうか?」
「あー違う違う。半分は趣味だが半分は仕事でな」
ヨルバドフは漁師になりたての頃は、数か月かけて遠海で漁をしていた。
そしていつしか近海で、その日に帰ってこれる距離で漁をするようになった。
理由は単純で捕れる魚の種類が違うからだ。
違う魚を捕りたい。
そして怪我を理由に引退。
引退はしたが船に乗れない程ではない。
朝自分で捕ってきた魚を、店で捌いて出す。
「時間も量も少ないから、それくらいなら平気なんだ」
「なるほど、失礼致しました」
「だからあんなに美味しいんですね」
三人は店を出て宿に戻った。
漁に出る時間は朝早いので、早く寝るためだ。
朝日が空に色を塗り始める頃に三人は港に訪れていた。
宿周辺はサラティスの足音が頭の上から聞こえるかの如く反響し、静けさにつつまれていた。
一転、港付近は活気が溢れていた。
これから漁に向かう漁師たちが多数作業していた。
サラティスはふと言葉を呑込んだ。
正直な話、自分とハルティックは場違いで浮いているように思える。
漁師たちが興味津々で眺めてくる。
二度見してくる。
それくらい物珍しいのだ。
それに比べダヴァンは実に場に適していた。
時たま挨拶を投げかられ、素直に返す。
ダヴァンに聞くが知り合いではないそうだ。
あまりにも自然体すぎる。
ハルティックから教わったが、盗賊のように海上で犯罪行為を行う集団を海賊と呼ぶそうだ。
荒々しい海賊。
まるで海賊のようだなどと、誉め言葉になりえないだろう。
「こっちだこっち!」
ヨルバドフの声が聞こえる。
「一応改めて聞くが、俺も最大限注意するが海で船の上だ。事故が起こる可能性はゼロじゃない。それはいいのか?」
「はい。例え怪我しても自己責任です。不安ならば契約書を書きますよ」
「ヨルバドフ、この日のためにサラティス様は泳ぎも練習済みだから問題ねぇぜ」
サラティスなら海に投げ出されてもけろっと戻ってきそうな感じすらある。
「そうか。じゃ小型で悪いが乗ってくれ」
サラティスはハルティックに抱っこされ船の上に乗せられる。
周りと比べれば確かに小型かもしれないが、サラティスには十二分に大きいと思えた。
思い出したくもないが、人は死ぬ気になれば木の板と剣で海を漂うことはできるのである。
三人は船の中に入る。
操縦席以外に四人ほど座れる椅子が設置してあり、そこにサラティスとハルティックは座る。
「動くからしっかり捕まっててくれよ」
ヨルバドフの合図で船が動き出した。
しばらくして、サラティスは立ち上がり許可をとりヨルバドフの近くに。
「すごいですねー。一体どういう仕組みなんでしょうか」
操縦席には魔石が組み込まれ、周辺に何かの魔術式が書いてある。
ヨルバドフは丸い円状の取っ手に手を乗せていた。
「あれは舵輪だな。あれを回すことで船の向きが変わるんだ」
「ダヴァンそしたらあの横のレバーは?」
「あれは速度調整だな。風魔術で速度出るらしいぜ」
「風魔術ですか?」
帆がないのはそれか。
帆に風魔術を当てることで速度を上げる方法は知っていた。
「……ということは水中部分に風を放出する機構があるってことですね」
「ああ。だから海に落ちたとしても船の真後ろに近づくのはなしだ」
「風魔術で移動……」
「大丈夫なのか?ぶつぶつ言ってるけどよ」
「ヨルバドフ気にするな。俺ら凡人では到達できない領域のお方だ」
サラティスの呟きはしばらくすると終わり、船も止まった。
「ヨルバドフさん、ダーランは捕れますかね?」
「ははは、そりゃ無理だな。ダーランはもっと遠い海でここいらにはいないぜ。それにあんなでかいのは俺の船だと持って帰れねぇしな」
「なるほど。確かに大きいって言ってましたもんね」