第149話「ニュール」
「このソースは生魚用でしょうか?」
カウンター席に置かれた小瓶。
サラティスは初めて見るものであった。
「ああ。それはニュールだな」
初めて聞く調味料だ。
小さい小皿にニュールを注ぐ。
そして、切り身をつけ食べる。
「……美味しいですね。タキヌが欲しくなりますね」
「お、分かってるね。ほれ」
「ありがとうございます」
「俺も大で一つ。ハルティックはどうだ?」
「私も一つ、大はサイズでしょうか?でしたら普通で」
「あいよ」
それぞれタキヌが入ったお碗が置かれる。
そしておすすめの切り身が様々と出さされた。
白身、赤身、黒身ともに大変満足した。
「お腹いっぱいです。とても満足です」
サラティスは満腹になった。
当然だがダヴァンが満足するには足りないのでまだ口にせっせと運んでいる。
サラティスは食事中聞けなかった魚について、質問した。
サラティスが一番気に入った黒身魚について尋ねてみた。
「あれはダーランて魔獣だな」
ダーランとは肉食の魔獣である。強い程美味いと言われている。
体長は四から五メルほど。
青い鱗に覆われ、胴体四カ所にヒレがついている。
ヒレは鋭くすれ違いざまに敵を切り刻む。
捕らえる時に注意しないと人間の指などスパっと落ちる。
恐ろしいのは普段は普通に前進して水中を泳ぐのだが、食事のため獲物を捕る時と身を守る時くるくると回転しながら猛烈な速度で突っ込んでくる。
生まれた直後の個体の肉は真っ白である。
回転することによって全身の肉が黒くなっていくことが判明している。
つまり、回転すればするほど美味くなる。
回転し、獲物を捕らえ外敵を排除した強い個体ほど美味いのだ。
「ニュールって何から作ってますか?」
「それはワミヌからだな」
「ワミヌってあのワミヌですか?」
ワミヌとは豆である。
栄養価が高く、加工すれば数多の食材に変化するので畑のミラルと言われている程だ。
ミラルは魔力で相手の姿に己を変える魔獣である。
「そうだ。発酵させたり非常に手間だが、ここいらじゃ一般的な調味料だな」
「サラティス様、これは生、焼き魚に使うのが主だからうちの方じゃ魚がそこまでだから、そんな入ってきてないな」
「この調味料って瓶の形から想像するに劣化が早いですかね」
「ダヴァン、一体なんなんだ」
「気にするな」
天才は一つの事象から十の事象を予測することができるという。
だが、傑物と呼ばれる者は、ゼロから一を作るのだ。
普段のサラティスを考えれば瓶の形を見てニュールが鮮度命であることを想像するなど造作もないことであろう。