第147話「知る人ぞ知る名店」
ダヴァンに案内され、人が少ない隠れ家的な店にやってきた。
主要な大きい道沿いは人も多いし、活気がすごい。
こちらは知らなければ近づかないような雰囲気で、店の前を通ってもここが店だと気付かず素通りする可能性大だ。
店というより少し大きい個人のお家にしか見えない。
店としての装飾や看板など一切ないのだ。
ダヴァンは遠慮せずにドアを開ける。
「……ダヴァンか!」
「おう、久しぶりだな」
店の中はこじんまりとしていた。
カウンターに十人ほど、四人が座れるテーブルが二つ。
最大でも二十人は入れない店としてはかなり小さい規模だ。
店の明かりもかなり暗く、盗賊や悪徳貴族が密談しているような雰囲気を連想させる様子。
「本当に久しぶりだな。てっきり死んだかと思ってぜ」
「お前より先にくたばるかっての。サラティス様、こいつはヨルバドフ。生魚の扱い、知識が長けてる。こちらが俺が今仕えてるリステッド家のサラティス様だ。でこっちが世話係のハルティックだ」
サラティスは驚いた。
ヨルバドフは髭面でも悪党面でもなかったからだ。
確かに肌は浅黒く、見える歯がすごい白いように感じる。腕は筋骨隆々で傷跡があちこちに見らる。
ダヴァンには申し訳ないが、彼見て盗賊だとは思わない。まず、海の男だと思ってしまう。
「サラティス・ルワーナ・リステッドです」
「こ、これはご丁寧にどうも。あーよかった」
「どうした?」
「いや安心してな」
「安心だ?」
「ああ。だって後にめっちゃ美人さんと可愛い子供。ありえねぇが、お前が結婚して子供ができたなんて連れてきたら、毒殺でもするしかないだろ」
「おい、ありえなくはねぇだろ」
「ありえねぇー。俺より先に結婚なんて認めねぇ」
「認められる必要はねぇ。で、大丈夫なのか?」
「ああ、今日は貸し切りだな。っとこれは見苦しい物を申し訳ありません」
腕まくりしていた袖を戻して腕を隠す。
「大丈夫です。差支えなければ聞いても?」
「ああ。えっと私は以前……」
「普段通りでいいですよ。公式の場でもないですし」
「すまねぇ、俺は漁師やってたんだ。で、腕は漁でこさえた傷だ。だが途中膝やっちまってな。数時間程度なら問題ないんだが、仕事はちと厳しくて引退して、魚料理を出すようになった」
「なるほど、勲章なんですね」
「おい、ダヴァン」
「んだ」
「お前の主人にはもったいないほどいい子だな」
「お前もか。まぁ、サラティス様は特別だからな」
「だな。俺も貴族の子供も数人見かけたことあるが、関わりたくないからな」
「おい、一応貴族の子供の前なの忘れるなよ」
「っといけね。座ってくれ」
「カウンターでいいですか?」
「ああ、好きなとこで構わない」