第146話「クスナ領」
翌日直ぐにタイメイを出た。
これから暫くタイメイ領は騒ぎになる。
そこに別領の貴族が、しかも深く関与しているサラティスがいるのは巻き込まれることを考えると良くない。
早く出た方がいいという判断である。
タイメイの北部はモスタニア領とルーダ領が接している。
位置的には北西がモスタニア領、北東がルーダ領だ。
ルーダ領に入りそのまま通過し、東に向かい、クスナ領に向かった。
「いい匂いですねー」
「まぁ、好き嫌が出る匂いだな」
「サラティス様、潮の匂いをつけて社交はできないので注意してくださいね」
「さすがに、そんな状況で海に寄り道したりはしないですよ」
クスナ領。
王国最大の港がある領である。
王国内で取引される七割の魚はクスナで捕られたものである。
そんなクスナは見渡す限り船、船、船である。
遠海に向かうための巨大な船、輸送するため巨大な船、近海で漁をするための小さい船。
圧巻である。
クスナ領首都ウィリナーデ。
ここに一ヶ月程度は長期滞在する予定であった。
魚、船、海と見たいものが盛りだくさんだからだ。
「ひとまず、今日は美味い魚食って一休みだな」
「サラティス様いいですか?今日海など行きたい気持ちは分かりますが、旅疲れというものがあります。明日以降に備えて今日は大人しく宿でお過ごしくださいね」
「……分かりました。ダヴァン、私生魚が食べたいです!」
「あいよ」
生で魚を食べたことはない。
リステッドも魚は捕れるが生でも安全に食べることができる種がいないのだ。
宿を確保し、荷物を置き食事をするために部屋を出て宿の入口に向かう。
「ハルティック行きましょう」
「迷子にならないように注意してくださいね。身体強化はお控えください」
人込みで見失うことはないが、本気の速度であれば恐らくハルティックの目では追えない。
そうすれば見失ってしまう。
「そんな迷惑なことしないですよ」
サラティスはハルティックの手を握る。
他所の貴族ではまず見ない光景である。
「張り切ってるみたいだな」
宿の入口にはすでにダヴァンが待っていた。
「もちろんです。魚ですよ、お魚」
「とっておきの穴場に連れていってやるから期待しといてくれ」
「本当ですか?」
「ダヴァン様はクスナはお詳しいのですか?」
「少しだけな。昔暫くここで魚料理を勉強したことがあってな。最近できた店は知らねぇが、昔からある美味い店はそれなりに知ってるぜ」
「さすがはダヴァン料理長」
「へいへい」