第144話「まさか」
その正体はディスサルであった。
「ここはタイメイ領です」
「……知らんな。お前の領か?」
「違いますよ。それに私のお父様が領主であって私じゃありませんよ」
「そうか。で?さっそくだな」
「はい。この人が妹さんですか?」
「えっと、一体貴方は?」
ディスィリシアは突如見知らぬ人物が現れたことに動揺を隠せない。
そもそも突如人が現れるなど聞いたこともないので驚くのは当然だろう。
しかし、サラティスが親し気に話している様なので、知りあいで危険人物ではないだろう。
「……こいつじゃないな。どうやら魔人のようだがな」
「そ、そうですか」
名前も近しいので当たりだと思ったが違うようだ。
「というか見ただけで分かるんですか?どうやって見分けているんですか?」
「身内くらい見れば分かるだろ」
「あ、ごめんなさい。違います、人間か魔人かってことです」
「ああそっちか。見れば分かるだろ」
「分からないですね」
「知らん」
魔族には見分ける力が備わっているのか。
それとも、ディスサル個人が何かしら見分ける力があるのか。
「ハルティック、この人はディスサルさんです。森でお世話になった魔族で危険な人物ではないですよ」
警戒しているハルティックの誤解を解く。
「ハルティック?」
一切の反応がなく思わずサラティスは振り返る。
「ど、どうしました?」
その光景にサラティスは思考が中止される。
ハルティックはディスィリシアより酷く動揺しているのか、わななわと震えて、ただ一点を凝視していた。
視線の先にはディスサル。
「ん。なんだ?そいつも魔人か」
ディスサルもハルティックに気付く。
「……」
「……」
沈黙。
交わる視線。
「お前名は?」
「は、ハルティックです」
ハルティックはディスサルに近づく。
「あ、貴方の名前は?」
「ディスサルだ」
「ハルティックには素直に教えるんですね」
自分と何が違うというのか。
「母さんは?」
「殺された」
「……」
「父さんは?」
「殺した」
「……」
ハルティックはディスサルに近づく。
「お前は元気か?」
「はい。お陰様で」
「幸せか?」
「はい。有難いことに」
「そうか……」
ハルティックはディスサルに近づく。
ハルティックはディスサルの胸元を掴む。
掴むというより、縋りつくというのが正しいかもしれない。
「ま、まさかハルティック」
「よく見つけたな」
まさかそんなことが起きようとうは。
「ディスサルさん、間違いないんですか?」
「この魔力は間違うはずがない」
「そ、そうですか。よかったですね」
「これは作為的か?」
「はい?」
「こいつはお前の使用人だろ?」
「そ、そうですね」
「できすぎじゃないか?」
「確かに。でも、ハルティックがリステッドで雇われたのは私が生まれる前のことなので、偶然ですよ」
「……そうか、確かにお前はガキだったか」
「サラティス様、前に私はリステッドに仕える切っ掛けは北だからと言いました」
「はい」
何故かは教えてくれなかった。
「魔族の兄を探したかった。リステッドは魔族との境界線になります。ここで働けばいつか、森から国にやってきた魔族と会えるのではないかと思ったからです」
「なるほど」
「その目です。その目が私の最初の記憶です」
「……」
「貴方が私の頭を撫でた。それだけは思い出せます」
「余計なこと言うな」
「やっぱりディスサルさんは優しいですね」
孤独になった妹を探していたのだから。
「違う。あくまで妹がどこまで能力を持っているか確認し、警告しにきただけだ」
「ハルティック、これはディスサルさんの照れ隠しですからね?」
「ちっ、てきとうなことを言うな」
サラティスは慌ててハルティックに説明する。
口の悪さで誤解される恐れがある。
「あ、そうだ。ディスサルさん本当にありがとうございました。お陰で無事にお家に帰れました」
「知るか。あくまで対価なのだから感謝されるいわれない」
相変わらずだ。
「そうだ、これをお前にやる」
「また魔石ですか?」
「そうだ。困った時一度だけ手を貸してやる」
「なるほど、いいんですか?」
「不要なら砕け」
「そ、そんなことしませんよ。大切にします。あ、ディスィリシアさんちょっといいですか?」
「何でしょう?」
サラティスはディスィリシアを連れ部屋を出た。
背後から余計なことをとディスサルがつぶやいたのが聞こえたが、気にせず二人は一階の工房に向かった。