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第14話「わがりょうちはびんぼうです」

「さて、さくせんかいぎします」

「は、はははい。私がこのような場にいてもよろしいのでしょうか?」

「マリー、嫌だったらサラに付き合う必要はないぞ」

「まぁ、そう言えるのはジェリド様だからだけどな」

「い、嫌なんてとんでもありません。サラティス様にお声をかけて頂いて嬉しいです」


 授業で使っている部屋にはサラティス、ジェリド、ダヴァン、マリーの四人が集まっていた。

 サラティスが呼び出したのだ。

 使用人の二人はたまたま時間が空いてた二人に声をかけた。


「サラ、作戦て何?」

「まずはみなさん、わがりょうちはびんぼうです」

「な」

「そ、そうなのですか?」

「ぶっ」


 ジェリドとマリーは驚き、ダヴァンは笑う。


「サラティス様、それセクド様の前では言わないようにな」

「貧乏ではなくないか?」

「すすすすみません、私のせいでしょうか?」

「マリーはかんけいありません。りょうちのぜいしゅうの、はなしをしています」

「あー」


 ジェリドは降参した。魔獣の討伐に参加させて貰えるようになったが、実務に関してはまだまだ未来の話である。


「びんぼうといっても、あしたあさって、らいねんにたべるものにもこまるって、わけではありません。きほんてきにはゆるやかに、あかじつづきのとしが、おおいってだけです」


 それはリステッド領の地域的な事情が関係している。

 リステッド領はサグリナ王国の最北端である。

 サグリナ王国内でも、北になれば気温が低く、南になれば高くなる傾向が強い。

 つまり、リステッド領は少し寒いのだ。

 気温が低い土地は、農作物の育ちが悪い。

 事実、リステッド領は作物の収穫量が少ない。

 何よりも重大な要因として魔獣の被害である。

 魔獣により農作物、農地に被害が出る。

 畜産はリステッド領の南の地域のみで営まれている。

 リベール大森林からやってくる魔獣の格好の餌である。

 家畜も人間より敏感なので北部に連れてくと怯えたり、暴れたり、脱走したりと手がかかる。

 畜産も場所が限定されている。

 鉱山なども特ないので財政状況を変えるほどの資源も採れない。

 リベール大森林の手前までの広大な森があるが、魔獣が多く生息しているので危険である。

 それに、サグリナ王国内での一般的建材は石や加工した石材などが主であるため、大規模な木材の需要はあまりない。なので、林業も見込がない。

 観光名所なども特に存在せず、魔獣の被害を恐れ人の流れも多くない。 

 そう、過酷な土地なのである。

 デメリットは多いが、他領より優れている点も存在する。

 サグリナ王国内にて一番犯罪発生率が低い。

 これは魔獣の存在が起因する。

 領民は魔獣に対して、ただ騎士が到着し、倒すのを指をくわえて待っているわけじゃない。

 弱い魔獣なら自分たちで対処もする。

 なので、他の領に比べて一般庶民の戦力が高い。

 例えば、強盗など犯罪目的でリステッド領にやってきても返り討ちの可能性が高い。

 人の流入もそこまで多くないのでよそ者は注目されやすいのもあって犯罪者がやってくることが少ない。

 領主のセクドは人格者で領民からの人気が高い。

 そして、魔獣討伐の際の連帯感などで結束力が高いため庶民の抱える不満が高くない。

 もちろん、セクドも不満が出ないように魔獣などの被害の補償は手厚く行っている。

 これも赤字の要因である。


「つまり、あかじをへらすために、ししゅつつをおさえたところで、こうかはほぼありません。りょうちがふあんていになるだけです」

「……ジェリド様も同じ意見で?」


 さきほどまで愉快に笑っていたのとは一変し、真剣な顔つきでジェリドを見る。


「全部は理解できてないけど、保証金を減らしたりするのはなし。それは僕も賛成だ」


 魔獣の討伐現場で見たからだ。

 被害を、被害を受けた領民を。


「そうかい。まぁ、これから先たっぷりセクド様から学んで考えてくれよ」


 領主は領民から税を取り、それを受け取る。

 が、領主にもさまざまな義務が課せられている。

 王国に対して、年に一度領地の広さ、領民の数に応じて税を払う必要がある。

 金銭のトラブルで領地や爵位を失う者もいる。

 領主は領地を好き勝手できるというわけにもいかないのだ。

 リステッド領も勿論税を王国に納めている。

 が、リステッド領の事情が考慮されている。

 強力な魔獣を討伐する、魔族との防波堤になっていること、それによりどうしても税収が低くなってしまっているので特例的に納める税が割り引かれている。

 この減税のおかげで赤字でもなんとかやっていけているのが現状だ。


「あたらしい、しゅうにゅうげんをふやしたいのです」

「わーそれはいいですね」

「でもサラ、いきなり言い出したのは何でた?お父さんとかも呼んで話し合った方がいいじゃないか?」

「りょうみんが、ゆかたなくらしをおくって、しあわせになってほしい。そして、わたしもおかねがほしいのです」

「ははははは。そりゃ素晴らしいなサラティス様。でも、サラティス様が使いたい金増やしたいのなら、領民の払う税の額を上げれば増えるぜ?てか、何でサラティス様個人に金が必要なんだ?」


 サラティスの人生目標は全て金がかかるものだ。

 貴族の身分であるため、生活に必要なお金は全て領民の税なのだ。

 なら、自身の力で領民の暮らしを豊かにし税収を増やし、結果使えるお金を増やす。

 それがサラティスの作戦であり、実現するための会議なのだ。

 それだけではない。税収とは別でサラティス自身で何か稼ぐことができればと考えていた。

 自身で稼ぐ金なら気兼ねなく使える。

 今一番欲しい物は大量の紙である。魔術の研究に大量に消費する。

 シェリーの授業でも勉強のために紙に魔術式を書いてとやっているが、あくまで個人的な研究のために欲しい。


「サラティス様には申し訳ありませんが、セクド様でも思いつかないことを浅学な私が思いつくはずもないかと……」

「そんなこといっちゃだめです」

「す、すみません」

「あやまらないで。マリー、ダヴァンにはおとうさまにはないものがあります」


 ダヴァンとマリーはお互いを見て、答えを探すが思いつかない。


「サラティス様、降参だ」

「わ、私もです」

「それは、してんのちがいです」

「「視点?」」


 これはサラティスだからこそ実感できることだ。

 サラティスは貴族として生まれ貴族として育てられている。セクドもジェリドもそうだ。

 貴族の生活しかしらない。

 しかし、ネイシャとしての記憶、そう一般庶民の視点も持っているのだ。

 実家で宿の手伝いをしていた時いろいろやらされた。

 宿屋の客とは住人ではない。

 他所から訪れてくる者こそが客なのだ。交易路の途中に店を構えているのなら、何もせず客は来るだろうが、ネイシャの家は田舎の村だ。

 なので、客を呼びよせるためにいろいろやったものだ。

 何より重要なのは如何にして興味を持たせることができるか、行ってみたいと関心を引くことができるかだ。

 そして、その客の大多数は一般庶民。


「つまり、俺たちが欲しい、興味を引くものが鍵になる……」

「マリーはりょうちになにがあれば、いってみたいとおもいますか?」

「わ、私ですか……そうですね……、あ。魔術具がたくさん展示していれば見てみてみたいなーって思います」

「なるほど……」


 魔術具とは魔術を発動する道具又は魔術式の効果で効率良くなってた道具のこと一般的にさす。

 一番メジャーなのは魔剣と呼ばれる剣だろう。

 剣に魔術式を組み合わせることで切れ味を良くしたり、火や水などの魔術で攻撃できたりなど数多くある。

 そしてマリーが言っているのは魔剣のたぐいではなく、魔術を発動する方のことだろう。


「俺はそうだな。珍しい食ったこともないようで、とても美味い料理出す店とかかな?」


 料理人らしい答えである。


「りょうりですか……」


 サラティス的には魔術具の方が圧倒的に見てみたい。 

 だが、魔術具は貴重で基本的には高価である。事前費用がかかりすぎるのでやりたくてもやれないのが現実問題だ。

 なら、料理の線から何かないか。


「おにいさまなにが、おすきですか?」

「うーん。やっぱ肉かな。あ、魔獣の肉屋なんてどうだ?」


 魔獣討伐とは魔獣を倒して終わりではない。

 街中に死体を放置したままだと、匂いに新しい魔獣が寄ってくるかもしれないし衛生環境に影響する。

 街なら、解体し使える素材は商人などに売却。それ以外は専用の場所に埋める。

 使えるものは使う。それは肉もそうだ。

 そもそも、普段口にしている肉だって元は魔獣の肉だ。

 違いは家畜化されているか野生かの違いだ。

 勿論、野生の魔獣は全て食べられるわけではない。が、食べれる魔獣は食肉に卸される。

 ジェリドもその場で焼いただけだが、父から貰ったことがある。

 自分が狩った肉をその場で食べる。味以上に特別な感情に満たされた。ジェリドにとっても大切な思い出だ。


「魔獣の肉は厳しいなー。ジェリド様の言ってるのは家畜化されてない魔獣ってことだろ?安定供給が難しいから商売には厳しいぜ」

「あのもりでいちばんやっかいな、まじゅうはなんですか?」

「強いやつか?」

「ちがいます。よわくでもいいです。いちばんやっかいなです」

「そうだな。父さんが言うにはワイルボロルだって」

「あーあいつなはなー狩人泣かだからな」


 ダヴァンは頷く。

 ワイルボロルは森や山岳地帯に生息する草食の魔獣である。

 四足歩行で、体長は百セルから、大きいもので三百セルにもなる。

 大人の平均身長が約百六十セルなので大人より大きいのだ、

 性格は普段は温厚で草食なのもあり人間を襲ったりしない。

 が、繁殖期の雄は視界に入る生物全てに襲い掛かるほど狂暴になる。

 一番の特徴は大きく前に突き出た鼻であろう。

 鼻の先端はとがって硬化しており、全速力で人がぶつかろうものなら穴が空く。

 そして鼻の穴が四つある。上二つは呼吸するための穴。下の穴二ツには歯が生えているのだ。

 草食なので口に生えている歯は四角い形をしている。鼻に生えている歯は三角で鋭くとがっている。

 その力は人間の骨だと粉々にしてまうほど。

 何に使うかというと主に攻撃に使用しているようだ。

 繁殖時期、他の雄と対決し勝った場合その鼻で相手の足を嚙み千切るのだ。

 なぜ、魔獣を駆除する狩人達を泣かすかいうと得れるものがないからだ。

 皮膚は短い黄土色の体毛に覆われているが抜けやすい特徴がある。

 ワイルボロルが木に体をこすりつける。するとそれだけで毛が抜けその落ちた毛が縄張り目印になる。

 なので、毛を使った製品に加工することが難しいので売れない。

 肉は焼いても、煮ても、揚げても、蒸しても一度口にしたら、一週間は食べ物が食べれなくなる。そう評されるほど不味いのだ。

 肉には独特な臭みというか、野性味がありそれはどう調理しても消えないのだ。

 骨も耐久性がそこまであるわけでもなく、大して売れない。

 一番は繁殖力の高さに尽きる。

 ワイルボロルの繁殖期は年に二回だ。

 そして、一度に五から十体ほど産む。草食で他の魔獣から捕食される魔獣ではあるので全ての個体が成長して、子を産むには至らない。

 しかし、産まれた子は一ヶ月ほどで繁殖が可能になる。

 なので運よく生き延びた数が多ければ大量発生になる。農作物を荒らされたり、繁殖期で狂暴になり大量に人里で暴れる。

 こういった場合は駆除しなくてはいけないが、金にならない。

 なので狩人泣かせと言われているのだ。


「あ!」


 ここは教室代わりに使っているので紙や描くものが揃っている。

 サラティスは何やら絵を描き始めた。


「こんなまじゅうですか?」

「「「……」」」

「どうしたんですか?」

「あーっとジェリド様頼んだ」

「あ」


 ダヴァンは大人気なく丸投げした。


「これ魔獣なのか?」

「しつれいな。ちゃんとまじゅうじゃないですか」

「「……」」


 ダヴァンとマリーは沈黙を貫く。

 サラティスの絵は実に個性的であった。

 ジェリドは特徴をサラティスに伝え、サラティスもそれを描いたのだと告げた。


「ためしたいことがあります」

「こいつ捕まえるのか?」

「とりあえず、おにくがあればだいじょうぶです」

「どっちにしても肉なんて売ってねーから狩らないとだめだな」

「いきましょう」

「だめだな」

「サラはだめだろ」

「てか、サラティス様。あれを食うのはいくらなんでも無理だぜ?どんな料理しても誤魔化せねー」

「だからためしたいんです」

「……ジェリド様」

「サラティス、いくら家の近くでも魔獣は危険だよ?肉があればいいんじゃないの?」


 わざわざサラティスが同行する必要がない。


「だめです。いちどみたいのです。じっけんがせいこうしたとき、つぎのだんかいにひっすですから」

「……ダヴァン」


 ジェリドは良く知っている。普段言われる前に行動に移す聡いサラティスが譲らない時は何があっても曲げない頑固だということ。

 こうなっては大人に言ってもらった方がいい。


「あーわかった。俺も一緒にセクド様に頼んでみる。いいか?それで断られてたら今は我慢してくださいよ」

「ダヴァン?」


 どうしてリステッドの男子はサラティスに弱いのだろうか。


「ありがとうございます。あ、マリーにはべつのおねがいがあります」


 マリーは使用人だが、外で魔獣と対峙するなんて業務外もいいところだ。


「それにおにいさまの、まじゅうをかるところみてみたいです」

「ま、まぁ今の時期なら大人しいだろうしな……」


 現金なもので一気にその気になる。

 マリーは重要な使命を聞き、一度自分の仕事に戻っていった。

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