第136話「いざ乗り込む」
三人はゼッカに辿り着き大将の所に向かった。
「ずいぶん早い帰りだな」
「大将もう少しだけ面倒見ててくれ」
「それはいいが、進展したのか?」
「ああ。胸糞悪い話だがな」
「……そうかよ」
「ハルティック、悪いがここにいてくれ」
「ダヴァン様、サラティス様が同行されるのなら……」
「サラティス様には申し訳ないが貴族の看板が必要だから外せねぇ。ハルティックが残る理由は二つ。一つは外見だ。いらん誤解を招くのと仮にお前の誤認逮捕を商人側が要望していたら?ハルティックが姿を見せることは失敗を悟らせることになる。二つ目は話し合いの途中で実力行使に出たら邪魔になる」
「……私がいない方が都合がいいのは理解しました。しかし、そのような危険な場にサラティス様を連れていくのは承知できません」
「ハルティック、大丈夫ですよ。不意打ちならともかく正面切って対峙するなら大したことありません」
「そうだ。それに雇われ傭兵くらいなら俺でもなんとかできる」
「……」
「ハルティック、今回は速度が命だ。遅れれば取り逃がすことになる」
「サラティス様、無茶などせず無事に戻ってきてください」
「はい」
「ダヴァン様お願いしますよ」
「ああ。任せとけ」
ハルティックは二人を見送った。
ダヴァンは大まかな作戦をサラティスに話しながら目的地に向かった。
「いらっしゃい」
「モグレンヴァはいるか?」
「約束は?」
サラティスとダヴァンは本拠地に乗り込んだ。
モグレンヴァ商会の店。
外から見てもかなりの大きさであることが分かる。
つまりそれだけ儲けているわけだ。
店内は鋏など園芸向けの金属商品が用途別にずらりと並んでいる。
この店に来れば園芸品は全て揃いそうだ。
二人は中に入ると店員にモグレンヴァがいるか尋ねた。
「悪いないが、ちっとどうしても会う必要があってな」
「無理だな」
これほどの店を構える商人である。
気軽に会える人物ではないだろう。
「会いたいのは俺じゃなくて、俺の主人だ」
ダヴァンは右に少しずれ、後に控えていたサラティスを店員に見せつける。
「き、貴族様?」
やはり店員の態度は早変りした。
貴族御用達の店員は、一目でサラティスが貴族であると確信したようであった。
「少しお待ちください」
店員は慌てて店の奥に消えていった。
暫くして店員が戻ってきた。
「こちらにどうぞ」
店の奥は別館と通路で繋がっているようだった。
恐らくこちらは商談専用なのだろう。
「こちらでお待ちください」
かなり広い部屋に通され、ふかふかのソファーに座る。
「お待たせしました」
すぐさま豊満な中年男性が入ってきた。
「私はモグレンヴァです。本日はどういった御用件でしょうか?」
「サラティス・ルワーナ・リステッドです」
サラティスはちょこんと挨拶をしてソファーに座り直す。
「悪い、ここからは俺がサラティス様の代わりに応対させてもらうぜ」
「分かりました」
モグレンヴァも特に気にせずうなづいた。
それはモグレンヴァが慣れているからであった。
貴族と取引しているが、貴族個人と直接応対することはあまり経験がない。
貴族お抱えの使用人など取引専門の人間が代理となっているケースばかりであった。
なので子供で少女の貴族である。
代理がやりとりすることは何らおかしいことではないからだ。
「改めて俺はダヴァン。そちらは?」
それはモグレンヴァが座っているソファーの後、壁際に男二人が立っている。
「ああ、あちらは従業員兼護衛のようなものなので気になさらないでください。もちろん契約魔術で一切お客様のことを漏らすことはありません」
「そうか」
ダヴァンは立ち上がり右手に立っている立派な体躯の男に近づく。
「旦那には悪いが、今回商談じゃねぇんだ。文句を言いに来たというか、確認しに来た」
ダヴァンは男の目の前に立つ。
「場合によってはあんたらを責める場合もあるかもしれねぇ。都合が悪い時にこいつがばっさりなんてことはないよな?」
それは男が腰に下げている立派な剣である。
「もちろんです。私共は有難いことに貴族様方と取引させて頂いてます。そんな事しようものなら、私達は皆終わりです。ですが私達は取引させて貰っているのでそれが答えかと」
「そうか、悪いな。一応本分は護衛でな。主人に武器が届く範囲だと警戒しちまって」
「小さいお嬢様ですからね、お気持ち察します」
サラティスは黙ってにこやかにしていた。