第135話「ぎりぎり」
「ちょうどだな」
二人が駐留所の前に辿り着くと中からダヴァンが出てきた。
「無事でしたか」
「まぁな」
「あのイケメンさんは?」
「ああ。あいつは残りだ」
ダヴァンはホンスに跨る。
サラティスもハルティックに抱っこされホンスに乗る。
「あいつは騎士だ」
「なるほど。だからあの身のこなしなんですね」
「それも王宮の精鋭騎士だ」
「意外ですね」
「へいへい、どうせ俺は悪人面ですよ」
「違いますよ。騎士と繋がりがあるんだなって」
「そっちか。まぁいろいろあってな。あ、言っておくが俺がお世話になってとかじゃねぇからな」
道中、ハルティックはダヴァンに魔人であること告げた。
「そうか」
かなりそっけない態度であった。
「まぁ、雇う時に一応素性調査してるしな。今さらだろ。それにこんな優良人材手放したりしないだろ」
「ありがとうございます」
「それと恐らくだが、ハルティックが魔人だからとかじゃないようだぜ」
「ダヴァン、どういうことですか?」
まず、ここの騎士団は王宮の騎士により調べられることが決定した。
ダヴァンとヨノスが軽く見ただけでも、不正逮捕と商人との癒着の証拠が見つかった。
これだけであればよくある汚職事件であるが、今回はそうもいかない。
違法奴隷疑惑が残っている。
現段階で明確に違法奴隷に関して有罪に持っていける証拠は出てきてないそうだ。
どこまでの騎士が奴隷にどれだけ関わっているかも不明だ。
ダヴァンは、この癒着の証拠から商人を追い詰め決定的な証拠を得るつもりだ。
そしてハルティックの件だが、指名手配の魔人と誤認して逮捕したではなかった。
そもそもハルティックが魔人であるという情報を騎士達は知らなかった。
鉱山の崩落現場で回復魔術を使って助けた。
恐らくだがそれを知り、回復魔術の腕を悪用しようと思ったのか、奴隷にする計画が立てられたようであった。
「ダヴァン様、騎士が動いているのなら、我々が直接動いていいのでしょうか?」
「平時なら駄目だが、今回は緊急というか成り行き上な」
そもそもヨノスには個人的に違法奴隷の可能性があると伝えただけである。
正式な捜査手順を踏んでいない。
違法な証拠を確保したので正式に動くのはこれからなのでどうしても遅くなる。
「こっちの違法捜査はいいんですか?」
勿論譲るつもりはないがリステッド家に迷惑がかかるのは避けたい。
「ああ。プライベートで騎士の友人とタイメイで会っていた。そこで主人の貴族とタイメイの騎士がトラブルになり、見かねて仲裁に入った所違法行為を見つけたって感じだ」
「なるほど、顔は見かけによらないですね」
ぎりぎり嘘はついていない。
何より無実な貴族と違法行為をした騎士。
どちらが優先されるかは火を見るより明らかである。
「一応なのですが、信頼に足る人物ですか?同じ騎士だからと庇ったり手心を加える心配はないのですか?」
「サラティス様、それはない。だがそうだな、そんなことしようものなら俺があいつを殴る。そして、サラティス様は俺を殴ってくれ」
「分かりました。いい友人なのですね」
申し訳ないがハルティックには理解ができなかった。
信じていることは理解できたが、どうしてそのような殴る流れに辿りつくのか。
サラティスはふっと笑う。
どうやらサラティスは理解できたようであった。