第130話「義務も義理もない」
三人は感謝され、村の宿まで戻ってきた。
風呂と食事を済ませベッドに潜る。
「サラティス様。一つ宜しいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「サラティス様はどうして、見ず知らずの人間を助けようとなさるですか?」
「……」
「サラティス様は子供です。領内ならまだしも、他領の人間で義務も義理もありません。もちろんその行為は、心がけは人として立派であられます。これは個人的な感想で恐れ多いのですが、助けることがあたりまえ、そのように行動なさってるように見受けられます」
癖、あるいは習慣だろうか。
サラティスは考える前に体が動くタイプだ。
目の前に命の危機が迫っている人がいて、周りに自身しか対応できるものがいなければ治す。
その状況に遭遇した時点で、まず体が動く。
さすがに教育のおかげで、まずは一度提案してからだが。
だがそれは何故か。
勿論それを明確に言語化することはできない。
ハルティックを納得させる答えを出せるかどうか。
「義務だとか義理だとか、考えたことはありませんよ。助けたくない人がいたら助けるなんて言わないと思います」
「……」
「正直な話、気付けば体が動いてたそんな感じですよ」
恐らくハルティックは子供らしくないから、もっと子供らしくてもいいんだと心配してくれているのだろう。
「それに、後悔はしたくないので……」
「後悔ですか?」
どちらが大人で子供かが分からなくなるようなやりとり。
「……」
それは具体的に何かあるのか。
ハルティックは何故かそれを問うことはできなかった。
翌日は村で買い物をしつつ、鉱山に関与する商人などの情報収集を行った。
ハルティックのお陰でかなり情報を入手できた。
鉱山での回復魔術の一件が広まっていた。
実際はサラティスが治したが、ハルティックが治したことにしてある。
助けてくれた親切者としておまけしてくれたり、いろいろと話しかけられた。
「あそこの鉱山はモグレンヴァという商人が主導で採掘などしているそうです」
ハルティックは昼に得た情報を共有していく。
ダヴァンだけ別行動であった。
「あの鉱山は一年程前から奴隷が増えて採掘量を上げてるんだとよ。奴隷の数が倍くらいになったそうだ。で、それより前は半年に一回程度の事故が急増してるみたいだな」
「そんな簡単に奴隷を増やせるんですか?」
「二、三人なら可能だろうが大勢は無理だろうな」
ディスィリシアは奴隷は三、四十人くらいはいたと言っていた。
ダヴァンの話をあてはめると、十人以上を連れてきたことになる。
「あ、そういえばこの村にいる騎士の団長がモグレンヴァの親戚にあたる人物のようです」
「ハルティック、俺もそれ聞いたぜ。本当かまでは分からねぇが、半年くらい前にこの村で騎士に三、四人が捕縛されたそうだ。で、そいつらはモグレンヴァの商売敵の関係者だったらしい」
「つまり騎士と癒着してるってわけですか?」
「どこで覚えてくるんだか……まぁそうだな。仮に奴隷が現場から逃げ出して騎士に助けを求めても……」
隠蔽されて終わり。
「かなり怪しいですね。ですが村人達でモグレンヴァを悪く言う人はいなかったですね」
「村にもかなり金使ってるらしいから、明確に敵対してないと出ないと思うぜ」
そしてダヴァンは注意だと告げる。
「モグレンヴァは怪しいがこいつが本当に主犯か、関与してる、またはしているが知らずにって場合もある。まだ断定はできないぜ」
モグレンヴァは誘拐され奴隷になったこと知らずに奴隷を紹介されて使っているケース。
つまり紹介している業者が犯人の可能性もある。
「なるほど……モグレンヴァを攻めても逃げられる可能性があると」
「ああ。この場合は一網打尽にしないとだめだな」
この時点で明確に分かっていることは組織的で計画的な犯行であるということ。
とりあえず、引き続き情報収集を継続することにした。
引き続き店など中心に買い物するついでを装い、聞いて周った。
「ダヴァン様。少し買い足しに行こうかと思うのでサラティス様を宜しくお願いします」
「おうよ」
夕方になりハルティックは宿を出て行った。
そして、ハルティックはその日戻ってこなかった。