第129話「隠して」
「じゅういち、けいご」
「早く持ってこい」
「先止血剤だ」
どうやら怪我人が出たようであった。
時折サラティスの知らない言葉が聞こえた。
「ハルティック、ダヴァン」
「「……」」
二人はそれだけで理解した。
「止血剤って聞こえました。人死にが出るのであれば、助けたいです」
「あー一点だけいいか。一応回復魔術を使う所は見せないようにすること。それと、ハルティックが使ったことにしてくれ」
「それがいいですね。サラティス様は現在貴族であることは隠している身。なら、魔術が使えることも隠しておいた方が安全でしょう」
「分かりました。その辺は頼みます」
素人が近づくなと怒鳴られたが、回復魔術を使えるとダヴァンが怒鳴り返すと、小屋に連れてかれた。
ここは救護室のようであった。
「これが治せんのか?」
「怪我人はこの方だけすか?」
「ああ。重傷者はこいつだけで、後は軽傷で、病院に行くまでもないレベルだ」
「おう、悪いがあんたらは暫く席を外してくれ」
「何故だ?」
「回復魔術を使うからだ。気持ちは分かるが、これだけの怪我を治すんだから集中させたい。 慣れない土地だ、せめて視線はない方がいい」
「そ、そうか」
リーダーと思しき鉱員が号令をかけ、すみやかにサラティスとハルティックと意識を失った鉱員だけになる。
ダヴァンは外で見張っていると小屋から出て行った。
サラティスは鉱員の状態を確認する。
「右足の破損ですか……」
鉱員の右足はおかしな方向に曲がり、つぶれ骨が肉を突き破って少しだけ見えていた。
「岩に潰されたんですかね……。ナイフ貰えます?」
サラティスはハルティックから小屋に設備されていた、ナイフを受け取る。
ナイフで男の服の一部を切り取っていく。
「これで全体が見えますね」
光魔術で手元を照らしながら、つぶさに観察する。
ハルティックも軽い切り傷を治す程度であれば回復魔術は使える。
患部観察しているということは理解できるが、それでどうして治せるかはやはり理解できない。
しばらくすると、サラティスは回復魔術を使い、鉱員の足は怪我など無かったのような状態になった。
鉱員は村の病院まで運ばれていった。