第124話「無理やり」
「こっちは終わった。開けてもらえるか?」
ダヴァンの声であった。ハルティックは直ぐに鍵を開けた。
「ひとまず、襲撃者は顔隠して不明。小柄なやつで直ぐに逃げた。そんな感じでてきとうに報告しといたぜ」
「ごめんなさい、嘘をつかせてしまって」
「まぁ、これくらいなら方便ですむからいいぜ」
「ダヴァン、ハルティックに奴隷について少し聞きました。この魔術式は奴隷なのですか?」
「ああ。俺は前に奴隷を見たことあるが、これと同じような魔術式が首に浮かんでたぜ」
「やはり、犯罪者ってことですかね?」
「そうだろ。過去は知らねぇが、あの村での殺人や強盗が、こいつの仕業なら間違いなく裁かれるだろうさ」
「そうか、そっちがありましたね……」
「サラティス様はどうして、助けたんだ?」
確かに違和感しかない襲撃者ではあるが。
「様子がおかしいのと、この魔術式壊れてるんですよね」
「どういうことだ?」
ダヴァンは初めて聞いた言葉だ。
「実は魔術式は一部が間違えても、発動したりするんですよね」
「あーなるほど。確かにそうだな」
「で、この魔術式は見た限り、正常に発動してません」
サラティスはこの魔術式の内容は知らないが、魔術式そのものが破綻しているかどうかはさすがに見れば分かる。
「だが、首にあるぜ?魔術が切れたらこの紋も消えるぜ。だから、出ている間は確実に奴隷なはずだ」
「そこなんですよ。元の効果を知らないので、何とも言えないのですが」
本来想定した効果と異なる効果を及ぼしている可能性がある。
例えるなら、行動を制限する魔術式なのに、行動を強制する効果になっているなど。
「てことは、こいつが襲ってきたのは魔術で無理やり?……無理やりだから、意思が感じられない」
そう言われれば、納得できる箇所がいくつもある。
「魔術で無理やり犯罪を強制させられて、捕まったらどうなりますか?」
「「……」」
二人は法に詳しい訳ではないので、答えを持っていなかった。
「もう一個別の懸念があります」
サラティスは首に浮かんでいる魔術式を紙に書いていく。
「ダヴァン、この魔術について知っていること教えてもらえますか?」
「ああ」
ダヴァンはハルティックより少しだけ詳しく知っていた。
「なるほど、やっぱりこれはおかしいです」
「説明してもらっても?」
「この魔術、無理やりかけられたものかもしれません。その時に抵抗したのか、魔術式が不完全な状態になった。完璧な状態が壊れたより、可能性は高いし納得できます」
「……無理やりだと?」
ダヴァンも穏やかではいられないようであった。
サラティスは知っている。戦時中、捕虜に無理やり魔術をかけるなどたくさん見られた。
正規の方法で行使されたものとの違いは見ればなんとなくわかる。
「あくまで可能性ですけどね。事がはっきりするまで匿った方がいいかもしれません」
「確かに無理やり奴隷にさせられ挙句、魔術のせいで人を襲った。救えねぇな」
「ハルティックはどうですか?」
各地の領を巡る旅。
それとは逸脱している。
「できるのであれば、私からもお願いします。お二人の推察が正しければ……辛いことですから」
「ありがとうございます。ダヴァン、秘密の宿なんて知ってます?」
「おい、なんだ秘密の宿って」
「こう、なにか……いかがわしい、柄の悪い人がこっそり集まるような……」
「あのな、俺を何だと思ってんだ?さすがに分別はつく。そんな所に近づくわけないだろ」
リステッド家の料理長という肩書がある。
もしそんな場所に訪れて露呈すれば、リステッドの名に迷惑をかけることになる。
セクドはどうでもいいが、リステッドそのものに迷惑をかけるのは申し訳ない。
「というか、タイメイだと大将のとこくらいしか、知らねぇんだよな」
「……」
ひとまずこの魔人の女性から事情を聞いてから考えようとなり、サラティスはそのまま眠った。
夜更かしはハルティックが許してくれないからだ。
ダヴァンは欠伸をする。
万が一にも魔人の女性が目を覚まし襲いかかってきたらまずいので寝ずに番をしていた。
ダヴァンが新しく貸してもらって部屋に連れてきていた。
サラティスの部屋で三人で寝るのにはベッドが狭い。
床で寝かすのも違う。
かといって二人が代わりに床で寝る訳にもいかない。
結果的にダヴァンの部屋でベッドに女性を寝かせ、ダヴァンは椅子に座り夜を明かした。
早起きした二人がダヴァンの部屋にやってきた。
「まだおねんねしてるぜ」
「そうですか。でもそろそろ起きるかと思います」
サラティスは魔術で眠らせたりはしてない。
なので、自然に目が覚めるはずである。
行動方針を相談し始めた。
「……っ」
暫くして、女性が目を覚ました。
「な、え?」
「私はサラティスです。貴女は?」
「わ、わ、た、助けてください」
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