第122話「夜襲」
「魔人だなこりゃ」
魔人。
腕が伸び、手が金属のように固くなっている。
「だがこいつぁ」
黒髪の魔人。
そして、その瞳は吸い込まれそうな赤色。
村人を襲った正体と一致する。
「俺らは旅人だ。金も持ってねぇ。何が目的だ?引くなら見逃してやる」
ダヴァンは騎士ではないし、タイメイ領と繋がりがある訳でもない。
サラティスの安全を守ることが最優先で、それが果たせるのなら犯人が逃げたところで問題はない。
「……」
女性はダヴァンの提案に一切反応しない。
『カキン』
また、腕を振るう。
ただ、正面から振られる腕だ。
ダヴァンは容易に往なす。
『カキン』
『カキン』
『カキン』
女性はただ腕を振るうだけ。
そこに動機と思わせる感情は感じ取れない。
まるで、朝起きたら服を着替えるようにその所作はただ、習慣的な動作に見えた。
ダヴァンもただの防ぐだけの作業に戸惑っていた。
攻撃はしてくるが、傷つける意図が感じられない。
「ダヴァン、私が後に回って無力化します。できれば腕を上に弾いてください」
「……分かった」
『カキン』
「おら」
ダヴァンは要望通り剣を振った。
女性の腕は上に弾かれる。
その下をサラティスが潜り抜ける。
『ストッ』
サラティスは女性の背後に回り、首に手刀を落とす。
女性は意識を失い、そのまま勢いで前方に倒れこむ。
「おっと」
ダヴァンが体を受け止める。
「ハルティック、扉の方の見張りを。すみませんが、誰か来たら入れないように、誤魔化してくれますか?あ、貴族であることはできれば伏せてください」
「分かりました。サラティス様が御着替え中ということで……」
ハルティックは鞄からタオルを取りだし壊れた扉に垂れかけて、覗かれないようにした。
「ダヴァン、ベッドの上に」
「あいよ」
ダヴァンはそのまま女性を抱き抱えて、ベッドの上に寝かす。
「呼吸も心拍は問題なさそうですね」
サラティスは女性の体調を調べる。
「ダヴァン、この模様って知ってます」
女性の首には何やら刺青のような模様が刻まれていた。
魔術式のように見えるが、サラティスには記憶がない魔術式であった。
「奴隷だ……」
「どれい?」
「ああ。だが、奴隷は好き勝手できねぇ。てこたぁ、主人の命令か?」
「ダヴァン、どれいとは?」
「あーそうか。それより騎士達が来る。どうする?」
部屋の外でハルティックが騎士達に着替え中だと止める声が聞こえた。
「ハルティックの上着を着せて……」
「つまりは庇うでいいんだな」
「ごめんなさい。でも、このまま騎士に突き出して終わりはちょっとできません」
「分かった。まぁ、奴隷だし疑問だからけだ。一旦時間が欲しいしな」
ダヴァンは女性を担ぎサラティスと共に部屋を出た。
「おい、あんたらタイメイの騎士でいいのか?」
「ああ、貴殿は?」
「まず、俺は護衛だ。正確にはこの子じゃなくて、この子の親のだ」
「私はサラティスです」
こつんとお辞儀するサラティスを見て騎士達は困惑した。
風貌が明らかに平民の子供ではない。
それに、この宿は貴族や商人などの金持ち向けの宿なので、間違いなく御令嬢だろう。
「こっちは使用人の一人で襲撃で怪我はしてねぇが、気を失っちまった」
「やはり襲撃か。話を伺っても」
「その前に宿の主人と話がしてぇ。俺は構わねぇが、ほら、子供は寝る時間だろ?落ちついて、安全な場所で寝かせからじゃだめかね?」
「う、確かに子供に夜通しは酷か。分かった、待ってろ」
宿屋の主人も被害者ではあるが、別の部屋を貸してくれることになった。
三人は部屋に、ダヴァンは別室で騎士に話をすることになった。
安全の為、ダヴァンが離れている間は騎士が部屋の前で護衛してくれるとのこと。