第118話「真剣にやった」
「そんなに怒るほど不出来でしたか?」
サラティスは当然真剣にやった。
久しぶりとはいえ、サラティスとしては初めての作業である。
何かミスをした可能性はある。
「すまなかった」
「大将?」
ダヴァンは思わず口を開け閉じれなかった。
いきなり大将が頭を下げた。
ダヴァンは初めて見たのだ。
あの大将が謝罪し頭を下げたという事実に驚愕した。
まさか、謝ることなどできたのかと。
「大将、サラティス様の腕は良いってことだな?」
職人だからこそ謝罪したのだろう。
謝罪してしまうほどのできであった。
「バカかおめぇ?良い訳ねぇだろ」
「は?」
「え?」
「今まで見た中で最高だ。嬢ちゃん、俺んとこで働く気はねぇか?最高待遇で雇うぜ」
「大将様、それはできません。サラティス様は貴族でいらっしゃいますので」
「っち。だよな」
「おいおい、そこまでなのか?」
「ああ。末恐ろしいな」
今でこれなのだ。
それが経験を積めばどこまでの物が作れるのか。
見て見たい。
作ってみたい。
「もったいねぇ……」
心の底からの叫び。
「嬢ちゃん、金なら出す。この魔石の加工やってくれねぇか?」
「もちろんです。お金はいりません。素人なので」
そもそもお願いしているのはこちらなのだ。
「おい、嬢ちゃんが素人なら、うちにいる魔術師は全員赤子、いや種だろ」
「大将様、サラティス様は子供です。発言に配慮を求めます」
「……がははははは。それは失礼した」
「大将さん、お願いがあります」
「なんだ?」
「剣の方も見せてもらってもいいですか?」
「もちろんだ」
目の前にいるのは世間知らずの貴族のガキではない。
一流が惚れる一流である。
サラティスは剣を観察する。
正確には剣に刻まれている魔術式をだ。
「ハルティック、紙とペン貰えますか?」
「こちらに」
サラティスのお出かけに紙とペンは必需品だ。
当然懐に用意してある。
サラティスは魔術式をすらすらと書いてく。
それは剣に彫られている魔術式であった。
「大将さん、ここと、こことか無駄ですよね?」
「んだと?」
サラティスは丸を書く。
「これなら、こうした方が効率的かと」
新しい紙に魔術式を書く。
「……なぁ、嬢ちゃん。もしかすると、こっちもいけるのか?」
「はい。こっちの方が得意です」
「よっし。型用意するから待っててくれ」
大将は棚から大きな紙を取りだす。
すーと剣の形を描き、紙を切り出す。
切り出した紙を置き、さらにもう一枚型を切り出す。
「こっちが表、こっちが裏で頼むわ」
「はい」
サラティスはすらすらと魔術式を書き出す。
「すまねぇな。三日後に来てくれるか?そん時に魔石に書いてもらおうかと」
「分かりました。ダヴァンの剣、宜しくお願いします」
「あたりまえだ」
それから当初のお願いである手入れの作業を見せてもらった。
「サラティス様、一応お伺いしますが満足されていらっしゃいます?」
正直な話、ハルティックには一切興味が湧かない光景であった。
「はい。本物の職人さんの作業は見てて気持ちがいいです」
「そ、そうですか」
初めてのはずだ。
今に始まったことではないが、やはりサラティスはサラティスである。
ハルティックは邪魔にならないように静かに見守る。
ダヴァンは預けている間に借りる剣を確かめに部屋を出ていた。