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第117話「魂が」

「どうすっかなサラティス様」


 剣だけ預けて送ってもらうのも手だ。

 しかし、その場合リステッドに戻るまで武器がなくなる。

 代わりの武器は勝手が違うので数日ならともかく、長期間は使いたくはない。


「大将さん、私がやってもいいですか?」

「ふざけんなよガキ。ガキが手出していいものじゃねぇ」

「まだ手を分かってないのに、どうして言えるんですか」

「っつ」


 大将の本気の怒気。

 それに一切怯むことなくサラティスは言い返す。

 言い返されるとは思いもしなかった大将は言葉に詰まる。


「ガキの癖に啖呵は一人前だな」


 大将は棚をがさこそと探り、魔石を机の上に置いた。


「このクズ魔石を貸してやる。こいつに書かれてる魔術式をクズ魔石に書いてみろ」

「おい、大将」

「小僧は黙ってろ」


 ダヴァンを睨みつける。

 とてつもなく意地が悪い。

 魔術式の知識があり魔石に書く。

 これだけでもそれなりに腕が求められるが、何の魔術式かも分からない、魔石から読み取れ。

 その道で経験を積まねば絶対にできない芸当である。

 サラティスなら、魔術式を読み取ることはできるかもしれない。

 だが、厄介なのは書く作業だ。

 紙にペンで書くとのとは訳が違う。

 大将は筆と鉄製の小さい四角形の箱を机に置いた。

 箱の上部には丸い蓋がついており、それをくるくると回し開けると中には独特な匂いのする真っ黒なインクが入っていた。

 魔石に魔術式を書くときはこの専用の筆とインクを使うのが一般的だ。

 このインクはかなり特殊な性質をしている。

 一定以上の魔力が混じるととインクが乾き固まり貼り付くのだ。

 なので、筆に魔力を流しながら書く。

 筆につけるインクの量で厚さが変わる。 

 流す魔力が弱ければ線は落ちる。

 強すぎれば、魔術具として使う時に安定しなかったり、必要以上に魔力を流さないとけなくなる。

 流す量が安定しなければ、線がたがたになる。

 サラティスは魔石を両手で包み込むようにして握る。

 そして目を瞑る。

 三人は静かに見守る。

 ハルティックは詳しくないが、専門の職人が行う作業なのは知っている。

 サラティスは集中しているのだと判断し、邪魔しないように空気と化していた。

 暫くし、目をカッと開く。

 手の中の魔石をくるくると回して、魔術式を見る。

 魔石を置き、クズ魔石の方を手に取る。

 右手で筆を取り、こつんとインクに筆先をつける。

 筆はインクを乱し波紋を立て、そして静寂となる。

 インクは筆を染め纏わりつき絡みついてく。

 サラティスは大きく息を吸う。

 次の瞬間、筆を持ち上げクズ魔石に魔術式を書いていく。


「……」


 大将は怒りながら笑い、戸惑っていた。

 肌が震えていた。

 剣を打っている訳ではない。

 火など近くにない。

 だが、まるで近くで火を浴びているかのような錯覚。

 そう、まだ見習いの時代の時、師匠が剣を打つのを傍で見ていた時のよう。

 サラティスは迷いなど一切なく、戸惑うこともなく、躓くこともなく筆を走らせていく。

 そうだ。

 これは感動だ。

 魂が震えているのだ。

 大将の頬に雫が垂れる。


「できました」


 サラティスは筆を置く。

 そして、クズ石を渡す。


「流石はサラティス様だな。大将どうなんだよ」


 やはりであった。

 当たり前のようにサラティスは魔石に魔術式を書いた。

 ダヴァンも流石に書かれた魔術式の良し悪しまで分からない。


「……」


 大将は壊れ物のようにクズ魔石を受け取る。

 受け取った腕は少し震えていた。

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