第116話「ラーダス族」
ラーダス族。
魔王と人類が戦った時人類に味方した魔族。
人類と非常に蜜月な魔族である。
ラーダス族はまさに鍛冶を極めるための種族と称しても過言ではない。
かなり長寿な種族で四百から五百年ほどである。
特徴的なのはその皮膚である。
ラーダス族は皮膚の色が明るいピンク色である。
しかし、その皮膚は熱を浴びると徐々に徐々に色を変えていく。
ピンクから緋色になっていく。
皮膚は熱にも強く、熱した金属を触れた程度でえは火傷などしない。
それに色が変わるにつれ皮膚も固くなっていく。
緋色の皮膚はよほど良い刃でなければ傷がつかない程である。
大将はまさに緋色であった。
つまりは鍛冶に生きてきた証である。
「まさか、こんな子供が理解るとはな」
ラーダス族、しかも鍛冶の道で生きる者からすれば、緋色の皮膚は何よりも尊敬され憧れの象徴である。
人間は皮膚の色があまりに異なるの気味悪がったりする。
だが、目の前の貴族の娘は綺麗な腕だと告げた。
そして、鍛冶が好きだと言い当てた。
初対面でそこまで理解されたのだ。
子供は素直である。
人間の子供に怖がられたとしてもそれが、普通で気にしない。
だが、この子供は綺麗だと腕に見とれ言葉が詰まるほどに。
「嬢ちゃん、武器が入用ならいつでも言え。とびっきりなの作ってやるから」
「おい、いらねーよ」
「ありがとうございます。大将さん、ダヴァンの剣の手入れ見てもいいですか?邪魔しないので」
「……嬢さん、いいのか?」
「危険がなければ問題ないかと」
「危険はねぇ。剣を作るならちと危ねぇが、今回は調整だからな」
「いいでしょ?ハルティック」
「ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願いします」
「おい、ハルティック。俺たちは客だからそこまで畏まらなくていいんだぜ?」
「お前は遠慮を覚えろ小僧」
大将に案内され立派な作業部屋に案内された。
「立派な作業部屋ですね」
「だろ」
大将は実にご機嫌だ。
立派な部屋。
立派とは豪華絢爛を指すことではない。
部屋自体、汚れていたりと決して綺麗とは言い難い。
しかし、職人の聖域。
機能美に富んでおり、道具は古くかなり使い込まれている。
それを立派と表現したのだ。
作業机の上にダヴァンの剣が置かれる。
「嬢ちゃん、この剣は魔術具だ。魔術具って知ってか?」
「はい」
「そうか。ダヴァンと違ってかなり賢い主人なことだ」
「おい」
時折ダヴァンを貶す言葉が出るのは愛情表現なのでは?とサラティスは受けとった。
ダヴァンの剣には剣身、鍔、持ち手に魔石が嵌まっている。
まずは剣の魔石を取り外す。
剣の方を洗浄、剣に彫られている魔術式を削り取り、そして砥ぐ。
魔石の確認。
使われている魔石は使用者の魔力を流すタイプなので交換はしない。
魔石に書かている魔術式を確認。
剣に魔術式を彫り、魔石を嵌めこみ完了。
これが魔術具である剣の手入れの工程。
「そういえば、どれくらいいるんだ?」
「一週間程度だな。どれくらいで完成するんだ?」
「さぁな」
「はぁ?何でだ?」
分からないとは一体どういうことか
。
「剣の方は魔術式は今と変えねぇのなら問題ないんだが、魔石に関してはこれ、書き直しが必要だ」
剣に魔術式を彫るのは鍛冶職の分担だが、魔石に関しては魔術師の領域である。
「その魔術師がちっと用で離れてんだよ。一ヶ月もすりゃ帰ってくる」
「前は魔術師なら数人いただろ」
「今もいる。だが、この魔石に書けるレベルは一人しかいない」
「ち」
ダヴァンは大将の頑固さを知っていた。
良くも悪くも職人である。
常に最高の仕事をする。
最高の剣には最高の職人が。
未熟者に触らせることは断じてない。