第11話「領主命令」
翌日、リステッド家の使用人が全員集められた。
使用人達は少し緊張していた。
普段役職関係なしに全員が集められることなどそうそうない。
それに仕事が休みの使用人まで呼び出された。
セクド、アレシアだけでなくジェリド、サラティスまで同席しており大集合だ。
「全員揃ったね。急に呼び出してすまない。皆に集まってもらったには訳がある。あまり使いたくないんだけど、これから伝えることは領主命令だ。破った場合は分るね?」
皆頷く。
領主には領地を統治するにあたってそれなりの権力を保障されている。
王国の法に違反しないのであれば領地内に独自の法を定めても構わない。
つまり、法的拘束力のある命令である。
「中身は秘密の厳守だ。漏らしたものは罰を」
貴族に仕えてるのだ。家の中で見聞きしたことを漏らすような人間はこの中にはいない。
なので普段と変わらないに等しい。
「実はサラティスの魔術の勉強のためにシェリーが来たことは知っていると思う。で、彼女がいうにはサラティスの魔術の才能があるそうだ」
使用人は不安になってきた。
普段のただの子供自慢と何も変わらないのではないかと。わざわざ命令にして隠す必要がどこにあるのかと。
「何故サラティスに才能があることを秘匿するかというんと、シェリー……魔術協会の副局長としての提案だ。サラティスを狙うなんて輩が現れかねないと」
「セクド様いいか?」
手を上げたのはダヴァンだった。
「なんだい?」
「そもそもサラティス様の聡明さは屋敷の人間なら誰もが知ってる。他貴族などの勢力闘争でなるべく隠したいってのも分る。だが、いつもと何ら変わらないのにこれだけ命令にするのは何故だ?」
「……サラティスが習ったのは回復魔術だ。切り傷を治すやつだ。いや、正確には習う予定だったかな」
「……」
普段の領主にしては話がなかなか進まない。使用人の困惑は広がっていく。
「サラティスは魔術式を見ただけで、無詠唱で回復魔術を発動させたそうだ」
ざわざわと声が漏れる。
使用人の中には魔術の知識が一切ない者もいる。
しかし、周りの驚愕の声、表情からすごいことなんだというのはなんとなく理解できた。
「本来なら、一年程度かけて詠唱のみでの発動を予定していたそうだ。だけど、教える前に既に習得してしまった。火や水ならともなく回復魔術でだ」
事情を知っている者はこの時点で領主が懸念している事案、何故命令にする必要があるのかを理解した。
「詳しくない者のために説明するけど、過去魔術の才のある子供を誘拐する事件もあったりした。その犯人の中には貴族もいたりした。だから、サラティスの才能は何かトラブルを引き寄せる可能性が高いと判断した。専門家のシェリーの意見だし、貴族としての私も同感だ。だから最低でも学園に通うまで、サラティスの魔術の情報は秘匿にして欲しい。むろん親族や親しい人間含めて全てだ」
一同一斉に首を縦に振る。
これがサラティスの魔術の始まりであった。