第108話「大切なのは」
そして、話題は魔術関連に移り変わる。
「サラ、見てなさい」
すぐさま練習用の人形が机の上に置かれた。
『治って』
魔術式なしの詠唱のみ。
人形の傷は数分で塞がった。
「すごいじゃないですか」
「でしょ。シェリー先生のお陰よ」
「それはフィーナ様が真面目に取り組んでおられるからですよ」
「サラ、何かアドバイスあるかしら?」
「へ?シェリーさんに聞くのが一番では?」
「いいのよ、サラティス。現段階で私は数をこなして無詠唱できるようになれば。そう考えてるし、現段階で特に拙い所もない。純粋にサラティスならどう思うかが私も知りたいわ」
「なるほど。なら、フィーナもう一回見せて貰えます?」
「分かったわ」
シェリーの風魔術で人形に傷を作る。
『治って』
結果は同じ。
綺麗に傷が治った。
「どう?」
「魔術そのものは問題ないかと。ただ……」
「「ただ?」」
「人形が治るからって安心しちゃだめってくらいですかね」
「?」
これはシェリーも首を傾げる。
暴走の気配もないのだから。
「小さな傷であれば問題ないですが、ちょっと深い切り傷などは血が出ます」
「あ」
フィーナは目をぱちぱちとさせる。
シェリーもはっとした。
「血を見れば慣れないうちは動揺するでしょうし、傷口も良く見えなくなるなんてことも。血の量によっては対処も必要です。人形が綺麗に塞がったから、人間も大丈夫と慢心しないことが大切なのかなと」
人形は血などは出ない。
シェリーは魔術の知識は深い。
だが、医療の知識はそこまで深くない。
それに、回復魔術も病院で専門的に使ってきた訳でもない。
魔術が正しく発動し作用するか。
家庭教師として、それを基準としていた。
サラティスの指摘は経験則から語られる非常に重いものであった。
「なるほどね。サラはどうやって練習したの?」
実に困る質問である。
「本物で練習できたからですね」
「ああそっか。この間も大変だったのよね?」
魔獣の被害が大きかったと伝えてある。
「はい、大変でした」
本当に大変であった。
ともて心踊ることもあった。
その万感たる同意に二人は大変だったのだと改めて感じた。
「シェリー先生何か良い練習方はあるのかしら?」
リステッド家の環境と大きく異なるフィーナでは真似できない。
「申し訳ありません。専門知識がないためすぐには思いつかず。今度病院勤めの知人に聞いてみますね」
「ありがとうございます」
そして、話題は魔術から日常にへと移り変わる。
好きな食べ物の話。
最近流行りの服。
シェリーのお仕事について。
学園はどういう場所なのか。
サラティスは初めてのお茶会であったが想像と違い、苦しいことなど何一つなかった。