第107話「お茶会」
翌日、サラティスは早めに起こされた。
もちろんハルティックにである。
持ってきたドレスを身に着ける。
そして例の如く耐久。
化粧を耐え、髪を整える。
サラティスはザバラット家の使用人に案内され中庭にやってきた。
どうやらこの庭お茶会をするためだけに使われる庭らしい。
「大変申し訳ありませんが、サラティス以外にもう一方いらっしゃる予定でなのですが……」
暫く待って欲しいとのことだった。
態度や口調から察するにリステッド家より上の身分の誰かであろう。
数分後シェリーと客人がやってきた。
「ごきげんよう、サラティス」
「お久しぶりですねフィーナ様」
やってきたのはフィーナであった。
全て納得である。
王族が訪れるとなれば、あの厳重な警備も頷ける。
サラティスは椅子から立ち上がり挨拶をする。
そして、三人は椅子に座る。
「ふふ、びっくりしたかしら?」
「はい。シェリーさんが日付まで指定している理由が分かりました。でも良く来れましたね」
王族の公務ではない移動はいろいろと大変であると聞く。
「サラが旅するっていうしね。それに、シェリー先生にはお世話になっているから」
「なるほど」
つまり、シェリー単独ではなく、二人共同のお茶会というわけだろう。
こうしてお茶会が始まった。
実に奇々怪々な面子である。
本来貴族のお茶会は社交目的が主である。
個人的な集いであれば、お茶会をすると公表せずこっそりとやればいい。
「今日は堅苦しいことは抜きで問題ありませんので。ここで見聞きしたことは何処にも漏れませんのでご安心ください」
シェリーはにこやかな笑みで宣言する。
知っているサラティスからすれば恐ろしい笑みである。
貴族としての社交的な創られた笑みなのが分かるので、さすがは貴族であると感心した。
「分かったわ。じゃ、これだけ先に」
フィーナが合図すると、直ぐに使用人が紙の長方形の菓子箱を机の上に置いた。
「本日はご招待の返礼としフィーナ・ロスダル・ダルサグからこちらを皆様に」
そして、直ぐに態度を戻す。
「すごいですね」
「?」
「いえ、フィーナが王女様らしくて」
「な、普段の私が王女様らしくないですって?」
この発言は非常に心臓に悪い。
子供同士の些細な掛け合いのはずだが、明らかに不敬である。
だが、少しばかりサラティスに慣れているシェリーは黙っていた。
「私は普段のフィーナの方が好きですよ」
「な。そ、そう?」
「ええ」
シェリーは驚愕した。
シェリーの中でサラティスの印象はセクドに良く似ているなであった。
本来は貴族の女児。
エミルよ花よと育てられる。
だがサラティスの気質、性格はセクドに似ており、むしろ兄であるジェリドの方がアレシアに似ていた。
だが、今発揮されたこの人誑し具合はまさにアレシアに劣らないものである。
王国随一の魔術の才を持ち、王女ですらこうも簡単に篭絡する人柄。
一体どれほどの傑物に育つのか。
「フィーナ様、こちらのお菓子は?」
箱を開けると出てきたのはシェリーが知らぬお菓子であった。
王家から出すということは、味、価値共に一級品。
魔術一番のシェリーではあるが、一般的な流行などは追っている。
だが、これは見たことがない。
見てこれが何なのか推察することができない。
まったく持って未知なるお菓子であった。
「これはショモナモルという甘いお菓子よ。食べて頂戴」
フィーナが満面の笑みでぱくっと食べる。
それを確認し、シェリーも口に入れる。
「な、こ、これは……一体何でしょうか?」
甘い。
そして口の中で解けて消えていく。
キュガーをたくさん入れた甘さではない。
サラティスもぱくぱくとショモナモルを食べる
。
「これはとある貴族の家が作った新しいお菓子なの」
「つまりは、市場に出てない献上品」
「そう。まだ試作段階でもう少ししたら、売りに出るようだから、これはそれまで内密にね」
「承知しております」
聡いシェリーである。
これは王家の我儘をきいてくれた礼であると理解した。
そして、ふと違和感に気付いた。
あの新しい物好きなサラティスの反応が薄い。
薄いというか皆無である。
普段であるのなら、これは何だ、材料は、どうやって作ったなど質問を浴びせるはずだ。
相手が王女だから控ても、二人の関係性を見る限りなさそうだ。
なら何故。
「まさかと思うけど、サラティスはショモナモルを知っているのかしら?」
ふと考えれば容易に想像できる。
既にサラティスがショモナモルを知っているのならこの反応は頷ける。
二人の仲はとても良好である。
なら、既にショモナモルを貰っていてもおかしくはない。
「え、ええ。そうですね」
シェリーはお茶を飲む。
それは心を落ち着かせるため。
サラティスの反応から想像したくない、その先を思い浮かべてしまったのである。
本来なら、そうそうありえない。
だが、相手はあのサラティス。
途端に現実実が帯びてくるのが恐ろしい。
「まさか、とある貴族ってリステッド家じゃないでしょうね?」
「う」
正解である。
「はぁ……。しかも、開発者はサラティスね」
「シェリーさん、秘密でお願いしますね」
「分かってるわよ。そういえば、ワイルボロルの肉が食べれるようになったのもリステッドよね」
「ええ。とっても美味しいお肉です」
「私も食べたわよ。おじい様も美味しいってすごい食べてたわ。はっまさか、サラ……」
フィーナもシェリーと同じ推察に辿り着いたようだ。
「な、なんでしょうか?」
「これもサラが考えたの?」
「ぐ、偶然できたといいますか……」
「やっぱり!サラは相変わらずね。話せる範囲でいいから、話してくれないかしら?」
重要な産業である。
口外厳禁な事項も多々あるだろという配慮である。
サラティスは偶然、ワイルボロルとネイリス草を一緒に食べたら美味しくなったとぼかしながら経緯を語った。