第106話「浮かばず」
シェリーと別れ以前見たことのある使用人に連れられ二人がいる別館に案内された。
「確かにこれを一人で食うのは寂しいもんだな」
「さすがはザバラット家ですね。使用人の私達にまでこのような食事を提供して頂けるとは」
「まぁ、シェリー様が二人と見知った仲なのもあるだろ」
セクドとアレシアのおかげであろう。
二人は貴族体をしておらず、使用人にも家族同然に接する。
それをシェリーも良く知っているからこその配慮であろう。
「それにしても、やはりお野菜は美味しいですね」
「だな。鮮度が良いしな」
「鮮度ですか」
「ああ。うちじゃ真似できっこないけどな」
発育の良い作物が育つ。それも大量に。
そして、それを収穫できる条件じゃなければ、難しいであろう。
「氷魔術で運ぶのはダメなんですか?」
「肉や魚は腐らないようにするのが目的だ。野菜も同じだがやりすぎると不味くなる」
「そうなんですか」
「それに野菜は種類によって適切な温度が違うし、状態によっても変えないといけねぇ。だから、鮮度を保つなら野菜事に専門家が様子見ながら氷魔術使って運搬になるな」
それは現実的に実現は不可能なことである。
移動魔術が使えたら。
ふとそんなことを思った。
だが人間が使うには余りに危険すぎる類である。
サラティスもバカではない。
便利さの代償に危険が孕んでいることは十二分に承知している。
戦争時見たようなことが絶対起きる。
その犯罪対策ができるようにならない限り、移動魔術を使うべきではない。
「土壌改善ですか……」
「無理だな。土壌は変えることができるかもしれねーが、気温、気候は無理だろ」
「確かに」
食事が終わり、ハルティックと共に風呂に入る。
広い浴槽である。
肩までしっかり浸かるサラティスの横にハルティックも腰を下ろす。
「サラティス様」
「なんですか?」
「念の為お伺いしますが、サラティス様は魔人についてどのようにお考えでしょうか?」
「ハルティックもですか?」
ついこの間似た様なこと質問された。
「もとはどういうことですか」
ハルティックは思わず立ち上がる。
「し、失礼致しました」
ハルティックは直ぐに再びお湯に浸かる。
「大丈夫ですよ。前にマリーに聞かれたことがありまして」
「マリーにですか?一体何故?」
「何故。……たまたま魔人の話になって、私は魔人が怖くないかって感じに」
「サラティス様の返答は?」
「もちろん怖くなんてありません。魔人も、魔族も、人間も一緒ですよ。良い人もいれば悪い人もいる。魔人だからで判断したりしませんよ」
「……そうですか。失礼しました」
「因みにハルティックは何故?」
唐突に質問するのか。
「サラティス様がシェリー様とご歓談している時、ザバラット家の使用人と少しお話しまして」
意外であった。
ハルティックは余り喋る方ではない。
「あら、お友達ができたのね?」
「違いますね。あの騎士達の警戒具合について尋ねただけです」
「もう」
ただの情報収集。
「あれは普段より厳重だそうです」
「やはりですか。原因は?」
「どうやら、ザバラットの周辺の他領地にて魔人の犯罪被害が出たようです」
「なるほど……」
ハルティックの質問の意図を理解した。
「そういうハルティックはどうなんですか?」
「私は特に思うことはありませんね。お屋敷に魔族が来た時はびっくりしましたが」
「す、すみません」
「いえ、きっとリステッド家に仕えるのならこれくらいで動じては勤まらないかと」
「あははは。そういえばハルティックはどうして家に?」
サラティスの目から見てもハルティックは実に有能であり、多才である。
ハルティック程の能力であれば、もっと有力な貴族や王宮で働くことだってできるかもしれないのに。
「……」
「あ、ごめんなさい。別に話したくなければいいですよ」
「いえ、ただ少し不敬になってしまうかと」
「気にする人なんていませんよ?」
「今はリステッド家以外に仕えるつもりはありません」
骨を埋めるつもりである。
「ただ、初めはリステッド家などどうでもよいと思っていました。ただ、リステッド領が最北だから選んだ。それだけでした」
「なるほど……何故北を?」
「サラティス様、申し訳ありません。出ましょう」
ハルティックはふとサラティスの肌を確認した。
「大丈夫ですよ?」
「いえ、長湯しすぎました。これ以上はのぼせてしまいます」
ハルティックに持ってかれ風呂から出た。
その後水を渡されごくごく飲んだ。