第105話「ひさしぶり」
街一番の大きい屋敷に到着した。
屋敷周辺は関所より厳重な警備が敷かれていた。
これでは屋敷に近づくことすら難しい。
騎士に招待状を見せる。
そしてようやく屋敷に到着した。
どうやらこの屋敷には客人側の使用人専用のための別館があるため、二人はそこに案内され、サラティスとはここで別行動であった。
豪華な応接室に通された。
「ひさしぶりね、サラティス」
「シェリーさん、お招き頂きありがとうございます」
「こちらこそ、唐突な招待に応じていただき感謝します」
そして、通常モードに。
「あのね、あんたフィーナ様に何吹き込んだのよ?」
「な、なんのことですか?」
「王族から直接手紙が届くなんて、どれだけ心臓に悪いか」
「わ、私は関係ないですよ」
「普通ならそうね。最北で何ら政争に影響のない辺境伯家の娘」
普通であれば王族とコネクションを築くことすら難しい。
「だけどね、あんたフィーナ様の先生だって?」
「ち、違います。あれは勝手にフィーナが」
「はいはい。それに手紙のやり取りしてるんでしょ」
「はい。友達なので。それに、最初に誰に魔術を教わったのか聞かれて答えただけです。王女様に嘘なんてつけないじゃないですか」
もっともである。
「あのね……」
もっともであることは理解できるが納得できない。
サラティスがシェリーに魔術を教えてもらった。
事実ではあるが、真実とはかけ離れている。
では、サラティスがここまで魔術を使えるようになった秘訣とは?どうやって教えたのですか?と問われてもそれに、解答する答えをシェリーは持っていない。
教科書を読ませました。
それでできるようになれば、そもそも教師など不要である。
「でも、立派な先生だってフィーナが言ってましたよ」
「……はぁ。まぁ、王家と縁を強化出来た点はザバラット家からしたら、有難い限りなんだけどね」
「良かったじゃないですか」
「良くないわよ。私は教師は本業じゃないもの」
想像したくないがもしも不手際があったら。
魔術の実技で怪我や体調不良になったら。
「王様はそんな人じゃないと思いますけどね」
「それだけじゃないのよ。大人の貴族ってのは大変なのよ」
「聞きたくないですね。そういえば、警備がやけに厳重のようですがあれはいつもなんですか?」
「あーあれね」
シェリーは何か含んだように笑う。
「お茶会は明日だから、今日はゆっくり休んで頂戴。申し訳ないけど、私はちょっとこれから出る用事があるから、明日の朝会いましょう」
「ありがとうございます」
「あ、食べれない物とかってある?」
「特にないですね。あ、そしたら連れの二人と一緒に食事しても?」
「ええ、問題ないわ。そうしたらあっちに運ぶよう指示しておくわね」