第102話「密室、男二人……」
「おい、何で俺なんだよ。騎士を付ければいいだろ?」
「騎士がぞろぞろ一緒にいたらそれは旅じゃないだろ?」
「それはそうだけどよ。数人つければ十分だろ」
「ちょっと今騎士を領外に出したくないんだよね」
「……」
「サラティスのおかけで財政がだいぶ良くなってきた。ササモが本格的に始動すればさらに増える見込だ」
「ご褒美ってことか?」
「それもあるし、サラティスのお願いだよ?親としては叶えられることは全てやってあげたいさ。で、増えた分で騎士を増やそうと思っているんだ」
「そりゃまたなんでだ?」
セクドは王の言葉が頭から離れなかった。
仮に他国と戦争にでもなったらリステッドからも人を送らなくてはならない。
領内の騎士が減ると起こる問題として、治安の悪化が懸念される。
だが、リステッドはこれより深刻な問題が発生する。
魔獣の被害である。
それに備えて騎士を増やす。
増やすといっても数年の年月が必要だ。
準備など考えると今騎士は一人でも減らしたくない。
「いろいろとね。ひとまず一割は増やしたいと思っている」
「数年かかるだろ」
「だから、今出したくないんだよ」
「騎士一人くらいなら変わらないだろ」
「それに、国内の移動でそんなに戦う場面に遭遇するとは思えない。どちらかと言えば。交渉事だ、処世術が必要になると思う」
「真面目くさった騎士より俺と」
「ああ。それにサラティスなら守ってくれるだろ?」
「守る必要あんのか?」
サラティスの腕はセクドが認める程だ。
「当たり前だろ、子供を守るのは大人の義務だ」
「まぁな。そんな事態にならないこと祈るさ」
「すまないね」
「ったく。まぁ、久しぶりの休暇だと思うさ」
「料理長なんだから、旅先でしっかり勉強してきてくれよ」
「おいおい、休暇だって言っただろ」
「アレシアもきっと新しい料理楽しみにしてるよ」
他領の料理や知識。そこにサラティスに発想。
ダヴァンと組めば未知なる料理を作ることだってできるかもしれない。
「そうだ、ハルティックはホンス乗れるのか?」
目的地の決まった旅行であるのなら、獣牽車で向かえばいい。
だが獣牽車では整備された道でないと通るのが難しいし、何より遅い。
なので獣牽車を使わず。ホンスに乗って移動する計画である。
「ハルティックは専属じゃないよ」
「あ?そうだったのか?」
雇っている使用人はマリーを除き基本的に従事する業務が決まっている。
掃除なら掃除だけ。世話係は世話のみ。
緊急事態や人員不足ならこの限りではない。
ハルティックは基本アレシアや、サラティスの世話係を担当している。
「そうだよ。ハルティックはかなり優秀だからね。全般できるよ」
「武芸は?」
「うーん。そっちは上は分からないな。最低限の護身ができるのと、魔術が少し得意なのは確かだね」
どれだけ強いのかは分からない。
実戦経験は無いとは聞いている。
「なるほどな。まぁ、護身ができるなら問題はねーか」
サラティスは言わずもがな。
本来であれば、料理人のダヴァンにはサラティス達を守る職務上の義務はない。
さらにいえば、サラティスは主人の娘であり、守るとしても、ハルティックは同僚である。
守る義務なし。
もちろん、考えたくないがそういう場面に遭遇したら助けるが。
そこで問題なのはハルティックが足を引っ張りサラティスが怪我を負う事態が発生することである。
だが、セクドを信じるのであれば身を守れるのであれば、自身とサラティスがいれば窮地を脱するなど容易い。
「サラティス宜しく頼む」
セクドは頭を下げる。
「ああ。その代わり、お前がこっそり隠した酒でも貰おうかな」
「な、何故君が知っているんだ」
「あのな。こちとら食器全般の管理してんだぞ?洗った時に気付くだろ」
「ん?まさかだけど、料理長自ら皿洗いもしてるのかい?」
皿洗いなどマリーを除き、基本的には誰でもできる業務だ。
何も長がしなくてもいいはずだ。
「菓子は洗い物が多いんだよ。ついでだからな」
「ああ、それは御苦労様」