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あなたを称える異世界讃歌  作者: 蜂見るぶろん!
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第一話


 「はー、ハーフエルフのもち肌、最高すぎるぅ……」

 

 火の粉を撒き散らしながら、夜闇を照らす焚き火。その近くで、四人組の部隊が野営をしている。


 交代制の見張りの晩。


 残った二人は黒髪の美少女と銀髪の美少年だ。

 黒髮の美少女はニヤニヤと笑いながら、美少年のほっぺたを蹂躙している。


 頬を触られまくっている美少年。

 それが僕だ。ちなみに眼前に座って、ほっぺたを触りまくっている黒髪の少女は異世界からやってきた聖女様である。


 彼女は元の世界に居た頃からエルフが好きらしく、その血を受け継ぐ僕の肌をこよなく愛しているらしい。


 「ほらほら、ここが良いんですかぁ……?」


 「……やめてやれよ、アオイ。リゼルも多分嫌がってるぞ」


 負い目があるので、何も言えずに困っていると寝袋の中から凛とした男性の声が響いた。声の主は勇者ソウマ。聖女アオイと同時に召喚されてきた聖人だ。


 二人は元の世界で面識がないらしく、最初は価値観が合わずに溝があったけど、現在は打ち解けることに成功している。


 一応、彼も起きていたらしい。

 ただ多分ってなんだ多分って。普通に嫌がってるよ……!


 「嫌です。わたしはこのためだけに生きているんです。元の世界で恋人持ちの貴方にはわからないでしょうけど……!」


 ソウマさんに噛みついて、続けようとする聖女様から離れて僕は歩いていく。


 「ん、どうした?」

 

 「なんでも無いよ。いや、君も丸くなったなって」


 「あぁー、確かにそうだな。ごめん」


 「いや、謝罪は求めてないよ……?」


 幸福。魔王討伐の道程には決して似合わない言葉だ。でも、僕はこの旅に幸せを感じていた。不謹慎だし、決して口にはできないけども。


 ★


 僕の名前はリゼル・パラディシア。


 伝承に伝えられる勇者の召喚。そんな偉業を成し遂げたモナリア魔道士団の若きエースである。


 その日、そんな僕は少なくない衝撃を受けていた。


 敗色濃厚な戦況を変えたいとの王命を受けて、王廷魔導士団全員で“共刻”し、異界から呼び寄せた2人の聖人。二人共魔力は少ない。しかし、微弱ながら二人の魔力器官には、美しい、純度の高い魔力が流れているのが理解できた。


 「……すごい」


 聖神教の教本にも出てくる、有名な勇者と聖女の姿。神代の遺物。その一端を目の当たりにして、僕は無意識にそんな言葉を溢していた。


 「……貴方達は何者ですか?」


 魔力切れによって回らない頭でそんな事を考えていると、切れ長の瞳の少年が僕達に向かってそんな問いを投げかけていた。


 何故かはわからないけど、少しばかりの警戒心を滲ませながら。まぁ突然召喚されたのだし、仕方がないのかもしれないけど。


 「私は“モナリア”の王だ。はじめまして、異界の勇者殿、聖女殿。どうか、私達を魔王から救ってほしい」


 そんな少年の問に、ジークハルト陛下が堂々とした態度で答える。


 そして、僕の方向に向かって合図を出した。


 これより、大仕事がはじまる。

 覚悟を決めて飛び込もう。


 「はじめまして勇者様、聖女様。僕の名前はリゼル・パラディシア。魔導士団の魔導士です」


 僕は二人の隣に立つと、努めて優しい口調で自己紹介をする。この世界についての説明。それが僕がこの場において、仰せつかった仕事だ。


 「良ければ、お二人の名前をお聞かせください」


 「空風葵。高校生です」


 「……明日見創真だ」


 近くで見ると、目の下の隈と奴隷の首輪?が印象的な聖女様は愛想良く返事をしてくれた。


 一瞬遅れて勇者様も名乗る。


 「アオイ様とソウマ様、ですか。では、僕がこの世界について解説していきますね!」


 3ヶ月前に始まった人族と魔族との争い。

 僕は戦場から送られてくる映像を城壁に投射しながら、言葉を紡いでいく。


 「これが魔法、凄い……」


 「ひ、人の首が」


 「今映し出されているのは、この世界で起こっている現実です」


 剣で首を切られる魔族、魔法で腹を抉られる人間達。聖女と勇者、二人の異界人。


 そんな映像を見た前者は感嘆の声を、後者は口を抑えて目を逸らしていた。


 「もとより人族と魔族は仲が悪かった。

 しかし、先代の魔王とは不戦協定を結んでいたため、大規模な戦争は起きていませんでした」


 絶句する勇者様を尻目に、僕は説明を続けていく。


 「数十年前、この世界に魔族の姿をした災厄が現れました。その名は、虹の魔王シルエス。彼は魔族を纏めあげ、魔王を名乗ると共に、人族が治める全ての国への宣戦布告を行います。かの魔王によって、平和は失われました」


 虹の魔王シルエス。それは未だ見た目も声も、考え方すらもわからない、全ての人族に牙を剥いた事だけが事実として伝わっている怪物。


 「シルエスの尖兵【選別のドラフィール】によって、魔族と人族を隔てていた城塞は破られました。そして現在も魔王軍は進軍を続けています」


 壁に焼け落ちた集落が映る。


 「我が国が誇る最高戦力をもってしても、魔族の侵攻は止める事は叶いませんでした。八方塞がり、そんなある時に聖国の教皇が見つけてきた過去の文献を頼りに、我々魔導士団は神代の魔法を再現します」


 足元の魔法陣が光を発した。


 「異界より呼び出された勇者は剣の一振りで海を割り、聖女が放つ魔法は一撃で空を穿つ。我々は魔法で、そんな二人の英雄を呼び寄せました。勇者と聖女。それがソウマ様とアオイ様なのです」


 説明を終えると共に、僕は転移魔法を使って隊列の中に戻った。


 なんとか、やり遂げられたらしい。


 「……王様はわたし達なら魔王を倒せると思いますか?」


 重苦しい空気に耐えかねたのかアオイさんが自信なさげに手を上げて、そう言った。汚れ一つ無い、清流みたいに澄んだ声だった。


 「倒せると、私は考えているよ」


 陛下は微笑む。


 ただ、いつもと比べてどこか胡散臭い笑顔だった。

 おそらく、二人のことを別に信じてはいないのだろう。腹芸。二人の素質が見えない為政者が取る行動としては正しいのかもしれない。僕は苦手だけど。


 「……もし俺達が魔王を倒せたら、地球には帰れるんでしょうか」


 しばらく間を置いてから勇者様がそう問いかける。地球。知らない単語だけど、それが僕達の“イーゼリア”の様な、星の名前なのだろうか。


 「お前ら、俺達は出ていくぞ。これ以上居ても邪魔になるだけだしな」


 しかし僕達にも届く筈だった、陛下の言葉は遮られる。魔導士長が僕達に出した指示によって。僕はそれを聞いて、ゆっくりと階段の方向へと歩いていく。

 異論はないし、上司の命令は絶対だから。

 いくら子供の頃に憧れていた英雄の後継者が近くに居たとしても、黙って聞く以外の選択肢はなかった。

 


 ──その日の夕方、勇者様は騎士団、聖女様は魔導士団の訓練に参加する事が決まり、指南役には騎士団長と魔導士長が選ばれる。


 二人が無事に活躍をすれば、戦況は変わる。

 どうか、平和な世界が訪れますように。

 それに彼らなら僕のことを──。


 「ん。今日はいっぱい寝るかぁ……」

  

 僕は、二人に淡い期待を抱きながらベッドに倒れ込む。疲れていたのか、3分も経たずに僕の意識は闇に沈んでいった。

  

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