さいころえんぴつ
僕が、その鉛筆を拾ったのは、道路脇の排水溝の蓋の上、期末試験だというのに筆箱と財布を忘れた事に気がつき、慌てて踵を返した時だった。
みれば、ちゃんと芯が削ってあるし、僕の鉛筆と同様に六角柱の側面を削って、1から6、AからEまでの文字が書いてある。同じ事を考えるやつは何処にでもいるのだなと、ほっとした気持ちで、それをポケットに入れた。
試験問題は、見事にヤマを外した問題ばかりだった。ただ選択問題が多かったので、拾った鉛筆がひたすら活躍をした。これで、全問を解答する事はできたが、当然当たるも八卦当たらぬも八卦である。
しかし、試験結果は驚きの結果だった。自分で考えて回答したもの以外は、全て正解していた。補習と追試から逃れられたのは、僕にとって画期的な出来事だった。
その夜、部屋の明かりを消すと、机の上で光るものがあるのに気がついた。うすらぼんやりとその鉛筆が青白い光を放っていたのだ。
「やぁ」とその青白い光が立ち上り、独りの少年の姿になると、挨拶をした。
「ひぇ・・・」と思わず叫びそうになるが、金縛りにあったように動けない
「さぁ、勉強をしようね」少年が言うと、僕の体が勝手に動いて、椅子に座った。ポルダーガイストが始まったように、参考書やノートが飛び交い、机の上でページがめくられた。
「さぁ、まずは、苦手な行列をやろう」
僕の手には、いつの間にか鉛筆が握られ、自動書記のようにノートに行列式の設問を綺麗な字で書いた。
「な・・・なんで」
「僕は、自動車事故で死んじゃったから、替わりに君が僕のやりたかったことを、継いでもらいたいのさ、君は鉛筆を拾ってテストで回答をした。それで、僕と君の契約が成立したんだよ。」
「おれ、野球の試合が・・・」
「いや、まずは東大を目指してもらわないと」幽霊は、僕の横に立って設問の解き方を説明をはじめた。
「だから・・・」
「契約を履行しないなら、君の命はない」幽霊は、血まみれの顔を突きつけてきた。
「や、やりますやります」というと幽霊君は微笑んだ。