第95話 複合魔法
突然の強い光に目が眩んだ一角黒豹は、呻き声を上げて目を閉じ、その場にうずくまる。
その一瞬の隙を逃さず、コハクとエメラが一緒に魔法を使う。
「「【風塵の渦】!」」
コハクの土魔法による土や砂と、エメラの風による風の渦。それにより、砂塵と風の檻に一角黒豹を閉じ込めたのだ。
複合魔法がうまくいったことに、大きくガッツポーズをして喜ぶエメラと、静かに満足げな表情を浮かべるコハク。
「【錬金】!」
そのまま、アルトの出した鎖とコハクの土魔法による拘束で、一角黒豹の動きを完全に封じたアルト達。
【風塵の渦】を解除すると、その場で藻掻きながらもほとんど身動きできずにいる一角黒豹。
そして、エメラ達はある一点――一角黒豹の後ろ脚についている飾り――に狙いを定め、各々攻撃を放った。
しかし的が小さい上、一角黒豹を気遣って高出力の魔法は使えないため、なかなか破壊には至らない。
意を決したアルトが【氷造形】で氷の矢を作り、放った。矢は真っ直ぐ飛んで飾りの宝石に命中し、パキッと音を立てて宝石に大きなヒビが入った。
その途端、一角黒豹が酷く苦しみ始めた。
「!?」
攻撃は当たっていないにも関わらず、一角黒豹が突然苦しみだしたことに驚く一同。
一角黒豹は藻掻いた末に拘束を振り払い、そして――
「やばい、逃げっ…!」
――空に向かって長い長い咆哮を上げた。
それにより、周辺には轟音と共に雷の雨が降り注いだ。
◇
しばらくしてようやく雷の雨が止まり、砂埃の舞う中で起き上がったキースとアルト。二人はアルトの【安全地帯】のおかげで無事だった。
周囲には砕けた岩が散らばっており、所々焼け焦げの跡もある。一角黒豹の姿は見えない。
「コハク、エメラ、テナ!」
「おい、レシェンタ!生きてるか!?」
二人の呼びかけに応えるかのように、地面の一部が盛り上がり始める。そしてガラガラと音を立てて岩の破片が動き、現れたのは土の塊。
その上部が割れ、レシェンタとコハクとエメラが顔を出した。
「私たちは無事よ。コハクが掘っておいてくれた穴に、ギリギリで隠れられたから。」
「今もコハクの土魔法のおかげで出られたの。」
「そうか…。」
無事な様子のレシェンタたちの姿に、ホッとするキース。
「あれ?ちょっと待って、テナは…?」
アルトの言葉に皆が辺りをキョロキョロと見回していると、後方から声が聞こえた。
「にゃあ~~~!」
声のした方を見ると、崖の中腹あたりに生えた木と、その枝にしがみつくテナの姿。
「なっ…あんな所に!?」
「テナ!」
慌てて駆け出すアルトだったが、次の瞬間――テナのしがみついていた枝が折れた。
「危ない!」
読んで下さってありがとうございます。
誤字脱字、読みづらい等ありましたらご指摘くださいm(__)m
ブックマークや評価、いいね等で応援していただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!