第93話 洗脳?
「二人とも大丈夫!?」
「ああ。おかげ様でな。」
「ええ、助かったわ。ありがとうアルト。」
間一髪、アルトの【安全地帯】の防御で雷の直撃を免れた二人。
「ボーっとしてる場合じゃないわよ!どうするの?」
油断していたレシェンタ達に檄を飛ばすエメラ。
「テナ、もう一度大きな声でお母さんに呼びかけてみて。」
アルトの言葉にコクリと頷き、すうぅっと息を吸ってテナは声の限り叫んだ。
「にゃあ~~~!!」
「…ゥガウゥッ!」
テナの声に反応し、明らかに苦しむ様子を見せる一角黒豹。
――と、次の瞬間。
「「「「「っ!!!!!」」」」」
一瞬。ほんの一瞬だったが、一角黒豹の瞳に理性の光があった。
その瞳にテナの姿を映した瞬間、一角黒豹の表情がふっと和らぎ……そしてまたすぐに血走った獣の目に戻ってしまった。
それでも、あの一角黒豹に何か異常が起きていることは明白だった。そしてそれを、この場にいる全員があの一瞬で理解した。
「テナ、そのまま呼びかけてて。僕がお母さんの注意を引くから…っ!」
そう言って一角黒豹の正面に立ちはだかるアルト。
【装甲】や他の魔法も駆使して一角黒豹の攻撃を避け、いなし、つかず離れずの距離を維持する。
こうなっては、下手に手を出すとアルトの邪魔になる――そう思った他の面々は、いつでも戦いに介入できる距離と体勢を保ちつつ、じっと見守る。
「なぁ、さっきの…」
「わかってるっ!あの一角黒豹、洗脳とかそういう類の何かが原因で我を失ってるわ。でも、さっきは明らかにテナの声に反応した…自我が戻りかけているのかも知れないわ。」
キースの問いかけに被せ気味に答えながら、声を荒らげるレシェンタ。その表情は険しく、彼女が真剣に怒っているのがわかる。
「だとしたら、後ろ脚のあれが怪しいわね。さっきから点滅の速度がまちまちだし、光も弱くなってるわ。魔法かマジックアイテムか知らないけれど、洗脳の力が弱まっているのかも。」
エメラの言葉に、小さく唸りながら考えるレシェンタ。
その目線の先には、我を失った一角黒豹と、その一角黒豹の攻撃をいなしつつ注意を引きつけるアルトの姿。
そして、アルトの肩にしがみついたまま、懸命に声を上げるテナ。
「一角黒豹を洗脳している何か…その原因がアレだとは、現状では断定できないわ。けれど、他に思い当たるものがないのも事実よね。エメラの見立て、いい線行ってると思うわ。」
「じゃあ後ろ脚のあれを壊せば、テナのお母さんが正気に戻るかもしれないのね。」
そう言って飛び出そうとしたエメラを、コハクが制止する。
「待って。あんな小さなものを壊すとなると、一角黒豹にも攻撃が当たる。」
「大丈夫、多少の怪我なら私が治せるわ。できれば傷つけたくなかったけれど、そうも言ってられないものね。」
レシェンタの言葉に頷く一同。
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