第90話 どういうことだ?
道中、キースは考えていた。
この岩場に棲みついた、Aランクの魔獣に関して――
まず、相手がテナの母親の一角黒豹だった場合。
アルトがテナとの契約を解除し、テナは母親のもとに帰る。それで、めでたしめでたし。
対面した瞬間は…子供を見失って怒り狂う母親と自分たちとの間で多少の衝突はあるだろうが、テナの姿を見れば母親も落ち着くだろう。
次に、相手がテナの母親とは別の一角黒豹だった場合。
すでに調査隊の人間に被害が出ている上、周囲の生態系にも影響が出始めている。間違いなく、討伐することになるだろう。
テナと同じ種族である一角黒豹が相手ならば、アルトの攻撃の手が緩む可能性もある。
いくら実力があって考え方も割としっかりしているとはいえ、アルトはまだ11歳の少年なのだ。その場合は、自分とレシェンタ、そしてふたりの精霊が連携すれば…まぁ多少の怪我くらいで済むだろう。
そして、相手が一角黒豹ですらない、別の魔獣だった場合。
その時は、この際なのでアルトの最大攻撃を見せて貰おう。レシェンタに詠唱やら魔法の相性やらを教わっていた様子だったので、アルトの魔法は前よりもパワーアップしているかもしれない。
――まぁ、後のふたつは杞憂だろう。テナの様子からして、この道の先にいるのは十中八九、テナの母親の一角黒豹だ。
そう、キースは楽観視していたのだが…
「テナ!……っおいおい、こりゃ一体どういうことだ?」
現実はキースの予想に反して、感動の親子の再会とはいかなかった。
今しがた自分たちの目の前で、一角黒豹から二度も攻撃を受けたテナ。
一撃目は掠りながらも避けたし、二撃目はアルトが防いだが、問題は身体の傷よりも心の傷だ。にゃあにゃあと必死に呼びかけるテナの声はあまりにも悲痛で、聞いている者の胸まで張り裂けそうになる。
「わからないわ。テナの様子からすると、あの一角黒豹はあの子の母親のはずなんだけど…」
「テナとあの一角黒豹…魔力の性質がとても似ている。」
「そうね、私もコハクと同意見よ。レシェンタの言う通り、テナの母親で間違いないと思うわ。」
「ああ。人違い…いや、魔獣違いってことはなさそうだな。だからこそ、あの反応が解せない。」
レシェンタたちに同意しつつ、剣を構えながら思考を巡らせるキース。
「テナに俺たち人間の臭いが染みついちまって“お前なんてうちの子じゃない”ってなっちまってんのか、それとも他に理由があるのか。」
「そうね……とにかく、このまま考えてばかりもいられないわ。まずはアルト達を守らなきゃ。それに、テナの母親なら一角黒豹をできるだけ傷つけないように気を付けないと…」
「そうだな。コハク、アルト達の前に壁を作れるか。」
キースの言葉に、首を振るコハク。
「この状況でアルト達の視界を塞ぐのは悪手。それより、相手の足場を崩す方が確実。」
「なるほどな…頼めるか。」
「当然。」
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