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第89話 様子がおかしい

しばらく歩くと、魔獣の気配が強くなってきた。その魔力の強さと威圧感に、アルトは思わず身震いする。


「どうした、アルト。」


「うん…今回感じる気配は、前に戦った剣大蛇スパーダスネークより強そうもっていうか、威圧感があるっていうか…そんな気がして。」


「私も感じるわ。なんだか重々しくて…うん、威圧されてる感じがする。」


「同感。この先にいる魔獣、洞窟のダンジョンにいたどの魔獣よりも…強い。」


そんなアルトたちの言葉に、ふむと考えるキース。


「あのダンジョンに出る魔獣たちと比べりゃ、そうなるだろうな。剣大蛇スパーダスネークと同じAランクといっても、強さにはある程度幅がある。前にも言ったように個体差もあるし、テナみたいに未熟な魔獣だっているしな。」


「キースの言うとおりね。それに、今回の相手がテナの母親の一角黒豹ホーンパンサーなら、子供と離れて気が立っている可能性が高いわ。」


会話に加わってきたレシェンタの言葉に、なるほどと頷くアルト。


「そっか、じゃあ早く会わせてあげないとね。」


「だな!」



「にゃ!」


突然、何かに気づいたように短く鳴き声を上げ、テナが走り出した。


「テナ!」


「動物的勘ってやつか?きっと母親の匂いや気配を感じ取ったんだろう。」


キースが指さす先、テナが走っていく先には、大きな身体の魔獣――一角黒豹ホーンパンサーがいた。

その額には立派な角が生えており、真っ黒な体毛に覆われた体はしなやかで、美しさすら感じられた。


「よかった…テナ、これでやっとお母さんに会えるんだね。」


アルトがほっと息を吐いたその時――


「待って。様子がおかしい。」


「どうしたの、コハク?」


「あの魔獣…テナを見ても、威嚇も警戒も解いていない。」


「「「「え?」」」」


コハクの言葉に、皆が再びテナと一角黒豹ホーンパンサーの方へと視線を向けると――


一角黒豹ホーンパンサーは前足を振り上げ、その鋭い爪を振り下ろした。


「テナ!!!」


間一髪、テナは横に跳んで爪による攻撃を回避した…が、少しだけ爪先が掠ったようで、怪我をした頬に血がじわりと滲む。


突然の攻撃にショックを受ける間も、掠り傷ですんだことに安心する間もなく、一角黒豹ホーンパンサーはテナに向かって飛びかかってきた。


ギイィィィン!!


一角黒豹ホーンパンサーの一撃を、【装甲】(アーマー)を纏った腕で受け止めるアルト。

痛みはなかったが、その表情は苦悩に歪んでいる。


「どうして…テナはあなたの子供なんでしょ!?なんで傷つけようとするの!」


アルトの脳裏に浮かぶのは、兄ばかりを可愛がってばかりいた母親…いや、母親だった女性の冷たい視線。


テナも悲痛な声で必死に鳴き声を上げる。が、牙を剥き出しにした一角黒豹ホーンパンサーの耳には、その声は届いていないようだった。

読んで下さってありがとうございます。


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