第89話 様子がおかしい
しばらく歩くと、魔獣の気配が強くなってきた。その魔力の強さと威圧感に、アルトは思わず身震いする。
「どうした、アルト。」
「うん…今回感じる気配は、前に戦った剣大蛇より強そうもっていうか、威圧感があるっていうか…そんな気がして。」
「私も感じるわ。なんだか重々しくて…うん、威圧されてる感じがする。」
「同感。この先にいる魔獣、洞窟のダンジョンにいたどの魔獣よりも…強い。」
そんなアルトたちの言葉に、ふむと考えるキース。
「あのダンジョンに出る魔獣たちと比べりゃ、そうなるだろうな。剣大蛇と同じAランクといっても、強さにはある程度幅がある。前にも言ったように個体差もあるし、テナみたいに未熟な魔獣だっているしな。」
「キースの言うとおりね。それに、今回の相手がテナの母親の一角黒豹なら、子供と離れて気が立っている可能性が高いわ。」
会話に加わってきたレシェンタの言葉に、なるほどと頷くアルト。
「そっか、じゃあ早く会わせてあげないとね。」
「だな!」
◇
「にゃ!」
突然、何かに気づいたように短く鳴き声を上げ、テナが走り出した。
「テナ!」
「動物的勘ってやつか?きっと母親の匂いや気配を感じ取ったんだろう。」
キースが指さす先、テナが走っていく先には、大きな身体の魔獣――一角黒豹がいた。
その額には立派な角が生えており、真っ黒な体毛に覆われた体はしなやかで、美しさすら感じられた。
「よかった…テナ、これでやっとお母さんに会えるんだね。」
アルトがほっと息を吐いたその時――
「待って。様子がおかしい。」
「どうしたの、コハク?」
「あの魔獣…テナを見ても、威嚇も警戒も解いていない。」
「「「「え?」」」」
コハクの言葉に、皆が再びテナと一角黒豹の方へと視線を向けると――
一角黒豹は前足を振り上げ、その鋭い爪を振り下ろした。
「テナ!!!」
間一髪、テナは横に跳んで爪による攻撃を回避した…が、少しだけ爪先が掠ったようで、怪我をした頬に血がじわりと滲む。
突然の攻撃にショックを受ける間も、掠り傷ですんだことに安心する間もなく、一角黒豹はテナに向かって飛びかかってきた。
ギイィィィン!!
一角黒豹の一撃を、【装甲】を纏った腕で受け止めるアルト。
痛みはなかったが、その表情は苦悩に歪んでいる。
「どうして…テナはあなたの子供なんでしょ!?なんで傷つけようとするの!」
アルトの脳裏に浮かぶのは、兄ばかりを可愛がってばかりいた母親…いや、母親だった女性の冷たい視線。
テナも悲痛な声で必死に鳴き声を上げる。が、牙を剥き出しにした一角黒豹の耳には、その声は届いていないようだった。
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