第88話 興奮するテナ
岩場の隙間にできた谷間の通路――その奥に、魔獣がいるようだった。
「この先だよ。結構奥の方みたい。」
カバンから出てきたエメラとコハク、テナも一緒に、皆で岩場の奥へと入っていく。
警戒しながら歩いていると、ヒクンと鼻を鳴らしたテナが、興奮気味に駆け出した。
「にゃ、にゃあ!」
「どうしたのテナ!?待ってよ!」
慌ててアルトが【身体強化】を使ってその後を追い、ひょいっとテナを抱き上げた。
「どうしちゃったの、テナ…っとと、落ち着いてったら。」
興奮するテナを落ち着かせようとアルトが悪戦苦闘している間に、キースとレシェンタが息を切らせて追いついてきた。エメラとコハクはいつもより早めのスピードでひらひらと飛んできたが、涼しい顔をしている。
「急に飛び出してどうしたんだ。」
「わかんない。テナの様子がちょっと…どうしたんだろう。」
そんな会話の間にも、テナはバタバタとアルトの腕の中でもがいている。
「ねぇ、この先にいるAランクの魔獣って、もしかして…」
エメラの言葉に、皆があっと息を呑む。
「もしかして……テナのお母さんが?」
「にゃあ!」
アルトの問いかけに、元気よく答えるテナ。
「そっか!それじゃ、早く会いに行こう。きっとお母さんも、テナのこと探してるよ。」
嬉しそうにそう言って再び歩き始めようとしたアルト。しかし、エメラがその袖を掴んで引き留める。
「ちょっと待ってアルト。そうだとしたら、テナの母親はあなたのことを“子供を攫った敵”と見なすかもしれないわ。ちゃんと身を守る用意をしておくのよ。」
「エメラの言うとおりね。相手が本当に一角黒豹だったら…というか、そうじゃなくてもAランクの魔獣なら、油断しているとただじゃすまないわよ。」
ふたりの言葉に、ハッとした表情を見せるアルト。
「わ、わかったよ。それじゃあ…【装甲】っと、これでいいかな。あと、テナもちゃんと一角黒豹の姿に戻っておこうね。このままだとお母さんがびっくりしちゃうよ。」
アルトは全身に【装甲】の魔法をかけ、テナのハンカチを外した。
元の姿に戻ったテナはぷるぷると頭を振り、皆を先導するように速足で歩き始めた。
レシェンタとキースは相手が他の魔獣だった時に備えて警戒しつつ、アルト達の後を追う。
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