第87話 新たな依頼
「この先です。以前はあのあたりにガルザの群れが確認されていたのですが…今では見ての通りです。」
彼が指した方向、木々の向こうには岩場が見える。
「わかった。アルト、頼むぜ。」
「うん…【魔力感知】。」
◇
今回はギルドからの特別依頼ということで、森の調査に同行しているアルト達。
なんでも、アルトとキースが出くわしたガルザの群れに関する調査で、進展があったらしいのだ。
もともとガルザたちが縄張りにしていた森の奥の岩場周辺――そこに何か別の魔獣が棲みついたことで、縄張りを追われたガルザたちが周辺に散ったのだという。
ただ、その魔獣の姿はまだ確認されていない。
ではなぜ“魔獣”と断定されたのか。
それは、調査隊のうち数名が“何か”に襲われたためである。彼らは一命を取りとめたものの重体には違いなく、今もまだ意識が戻っていない。
そのため証言はとれなかったが、彼らの身体や荷物には爪で引き裂かれた、あるいは牙で噛みつかれたような形跡が残っていたのだ。
このままでは調査どころではないと、上位冒険者に調査隊の護衛を頼むことになった。
調査隊のメンバーも、森に入る以上は冒険者でいうDランクかそれ以上の強さをもつ者たちだった。が、今回の相手には歯が立たなかったのだ。
そこで護衛として白羽の矢が立ったのが、アルト達だった。
冒険者であるキースの知識と経験、宮廷魔導士であるレシェンタの知識、アルトの【魔力感知】、そして全員の“強さ”。加えて、以前に件のガルザと遭遇したという点。
これ以上の適任はいないということで、ギルマス直々の依頼だった。
◇
「どうだ、アルト。」
「うん。岩場の奥の方に、強い魔獣がいるよ。数は1体だけ。たぶん、この間の剣大蛇と同じか、それよりも強いかもしれない。」
「てことは、相手は恐らくAランクの魔獣だろうな。Sランクってのは、桁違いに強いらしいから。」
アルトとキースの言葉に、様々な反応を見せる調査隊のメンバー。
【魔力感知】という魔法に驚きを見せる者、Aランクの魔獣と聞いて身震いする者、信じられないと目を白黒させる者…
「Aランク1体なら、私たちでどうにかできそうね。行ってきましょうよ。」
「おいおい、相手が何の魔獣かもわからないんだぞ。」
わくわくした様子を見せるレシェンタをたしなめるように、言葉を返すキース。
「考えていても始まらないし、ここで戦うよりはマシでしょう。調査隊の人たちを守りながら戦うとなると、さすがにこの人数じゃ厳しいと思うわ。それに…」
言葉を濁したレシェンタは、キースにだけわかるように、一瞬だけアルトのカバンに視線を向けた。
従魔として登録されているテナはともかく、精霊であるエメラとコハクの存在は、ギルド職員でもある調査隊の人たちには知らされていない。
いざという時に精霊たちの力を借りるのならば、彼らに見られないところで戦う必要があるのだ。
「…それもそうだな。アルト、お前はどう思う?」
「僕もレシェンタさんに賛成かな。誰かを守りながら戦うっていうのはやったことがないから…ちょっと心配だよ。」
「正しい判断よ、アルト。慣れないことをぶっつけ本番なんかでやるものじゃないわ。人や物を護衛しながらの戦い方は、今度練習しましょう。」
アルト達だけで行く方向で話が進んでいたため、調査隊のひとりが遠慮がちに問いかけてきた。
「あ、あの…本当に行かれるのですか?」
「はい。あ、このあたりには他の魔獣はいないみたいだから、安心して待っていてください。」
(((違う、そうじゃない。)))
にっこりと笑って返事をするアルトに、調査隊のメンバーは冷や汗を流しながら心の中で突っ込みを入れた。
「っし!んじゃ、行きますか。」
ニカッと笑ったキースの言葉に、アルトとレシェンタは頷いた。
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