第9話 魔力感知
「向こうの方に、そんなに強くないけれど魔獣の群れがいるわね。出くわさないように、少し遠回りしましょうか。」
エメラと旅をしていると、このように助言されることがあった。アルトは感心すると同時に、よく見えるものだと不思議に思っていた。
「わかった!すごいねエメラ、僕には何も見えないや。」
「あら、私だって目では見えないわよ?」
エメラの言葉に、アルトは目を丸くして驚く。
「え?それじゃあどうやって見つけているの?」
「どうやってって…魔力感知よ。」
エメラは事もなげに言うが、アルトには全く意味がわからない。
「魔力感知って何?」
「魔力感知を知らないの?それじゃあ、アルトはどうやって私を見つけたの?」
今度はエメラが目を丸くする番だった。
「えっとね、たまたま上った木の上で見つけたんだ。あの時は驚いたよ。」
「えぇーー!?」
エメラの話では“魔力感知”とはその名の通り、魔力を感じ取る能力のことらしい。精霊は皆生まれつきできるもので、精度が高い者は対象の数や魔力の大小までわかるのだとか。
「まさか魔力感知ができないどころか、知りもしないなんて…よくそれで一人で森の中を行こうなんて思ったわね。急に魔獣に襲われたらどうするつもりだったのよ。」
エメラはアルトから知らされた事実に呆れるのではなく、驚いていた。そして、本気でアルトのことを心配してもいた。
「村にいた頃から狩りの練習はしてて、熊とか猪とかも狩れるようになってたから、大丈夫だと思って…それに、魔獣のことは知らなかったしね。」
「そう言えばそうだったわね。じゃあ早速、魔力感知の特訓よ!」
魔力感知の特訓は、なかなかに難航した。
アルトにとっては手探りの訓練は慣れっこだったのだが、エメラはそうではない。むしろ、これまでのアルトはエメラの教えたことをあっという間に習得していたため、さほど苦労はなかった。しかし、今回は違ったのだ。
というのも、精霊にとっての魔力感知は、人間でいう五感のようなもの。どうやって音を聞いているか、どうやって景色を見ているかを口頭で説明するのは難しいだろう。
「こう、ビビッと感じるのよね。あ、あっちに魔力をもつ何かがいる!みたいな。」
「ごめんエメラ…それじゃわかんないよ。」
「うぅ…私だってどう説明すればいいのかわかんないのよ!」
途方に暮れる二人。しばらく考え込んだ後、エメラがパッと顔を上げた。
「えっと、それじゃあ他の感覚を無くしてみましょうか。見えない、聞こえない、触れない状態で、魔力を感じる練習をしてみるの!」
「そうだね。それじゃあ安全な練習場所を作らなきゃ。えっと…【障壁】、【無音】、【目隠し】!」
この組み合わせの魔法は、料理をするときや寝るときなどに重宝している。バリアの中にいれば外からは見えないし、中の音も漏れない。もし攻撃されてもバリアに守られるため、内側は安全なのだ。
「それじゃあアルト、真ん中に立って目を閉じて。いい?今から私はこのバリアの中を移動して、どこか一箇所で止まるわ。アルトは私の魔力を探って、私がいると思う方向を指差してね。」
「うん、わかったよ!」
◇
数日後―――
アルトの目の前には、クルミの殻が二つ。
「えっと…右!」
「正解よ!もう大丈夫そうね。」
右の殻には、エメラが魔力を込めていたのだ。
「それじゃあ、外で試してみましょうか。」
「うん!」
バリアの外へ出たアルトは、魔力を探ることに集中する。
精霊のやり方とは違うかもしれないが、アルトなりの魔力感知は、薄く自分の魔力を張り巡らせるイメージだ。
「わぁ…」
“魔力感知”を習得したアルトは、森の様子が今まで感じていたものと全く違うものになったことに、とても驚いた。
木の上や草むら、土の中など、あちらこちらから大小様々な魔力を感じたのだ。
「エメラ、すごいよこれ!森のあちこちから魔力を感じるんだ!」
「ふふふ、もう完璧みたいね。それじゃあ、あっちに魔獣の群れがいるのがわかる?」
エメラの指差した方向に意識を集中させると、確かに複数の魔力を感じた。
「えっと…そうだね。うん。6匹くらいかな?」
「そ、そうよ。(え、アルトってば、魔力感知で数までわかっちゃうの?)あれは魔獣にしては弱い部類なの。今のアルトなら楽に勝てると思うけど、変に刺激してもっと大きな群れやボスを呼ばれると厄介なの。だから近付かないようにしましょう。」
「そうだね。」
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