第86話 いささか安すぎる
騒ぎの中心となってしまった一行は、足早に逃げるようにしてラルゴの店へと駆け込んだ。ラルゴは「店主と少し話をしてくる」と告げ、店の奥へ行ってしまった。
手近な椅子に腰かけたキース達は、先ほどの出来事に関して話し始めた。
「いやー、驚いたな。まさか街中であんなことになるとは。」
「あの場にアルトが居合わせて本当によかったわ。じゃなきゃ彼、大怪我どころじゃすまなかったわよ。」
「そんな、僕は大したことは…」
「彼女の言う通りです。いやそれどころか、私も事故の巻き添えを食らって大怪我をするところでした。」
アルトの謙遜の言葉を遮ったのは、店の奥から戻ってきたラルゴだった。
「危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました。娘の命の恩を返す前に、また恩が増えてしまいましたな。商品の値引きだけでは恩を返しきれませんぞ。」
「いえ、僕は本当に…」
「謙遜なさることはありません。それにしても、本当に素晴らしい魔法で………む?」
アルトのことを称賛していたラルゴだったが、途中で言葉を切り、ブツブツと呟き始めた。
「年若い冒険者、優れた魔法、それでいて謙虚、名はアルト……あなたはもしや、剣大蛇を倒した話題の冒険者、アルト殿ですかな!?」
グワッと顔を上げて目を見開いたラルゴの勢いに気圧されながらも、アルトはどうにか返事をする。
「ええと、僕一人で倒したわけではないですけど…多分そうです。」
「やはりそうでしたか。いやしかし、すぐに気づけなかったとは…私の目もまだまだですな。」
そうしてまたアルトのことを褒めちぎり始めるラルゴ。そこへ助け舟を出したのはキースだった。
「あー、その辺にしといてやってください。アルトが反応に困ってますんで。それよりも、店の商品を見せて貰えますか。」
「これは失礼いたしました!ええ、ええ。どうぞごゆっくりご覧ください。今はあなた方だけの貸し切りにしておりますので。」
◇
ラルゴと店長の厚意に甘えさせて貰い、店内を色々と物色したキース達。
当面必要そうなポーションや食料などを購入し、キースは防具も新調した。
「あなたねぇ…これはアルトへのお礼なのよ?少しは遠慮しなさいよ。」
質の良い新しい防具にホクホク顔をしているキースを、渋い顔をしながら小突くレシェンタ。
「何言ってんだよ。せっかく安くしてくれるって言ってんだ。遠慮なんかしたらかえって失礼だろうが。」
「ちょ、ちょっと、二人とも…」
そんな二人のやり取りをオロオロしながら止めようとするアルトだったが、相変わらず会話のテンポが速くて上手に割り込めない。
「はっはっは!ええ、遠慮など無用です。もっと買っていただいても構わないくらいですよ。」
「いえ、もう十分です。ありがとうございました。」
「おや、そうですか。」
キッパリと断ったレシェンタの言葉に、少しだけ残念そうな顔をするラルゴ。
「しかしこれだけでは、恩返しにはいささか安すぎる…そうですな、ではこうしましょう。今後あなた方が商売に関することで何か困ったことがあれば、いつでも私が力になります。」
「商売に関すること?」
アルトが聞き返すと、ラルゴは大きく頷いて話を続けた。
「ええ。素材の買い取り、商品の取り寄せ、店の紹介…私にできることならば助力を惜しみません。商館の者たちにも伝えておきますので、いつでも訪ねていらしてください。」
「そりゃ凄い!アルト、やったな!」
アルトにはこれがどのくらい凄いことなのかピンとこなかったが、キースが言うからには本当に凄いことなのだろう。わからないながらもコクコクと頷きを返した。
「それでは、この度は本当にありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
深々と頭を下げたラルゴと店主に見送られながら、アルト達は店を後にした。
帰り道の途中、先ほどの建設中の建物を見たアルトは、ふと小さな疑問を感じた。
(あれ?そういえば…どうしてテナはさっき、あの男の人が落ちそうになる前に声を上げたんだろう…?)
「おーいアルト!何してんだ、はぐれちまうぞ?」
キースの呼びかけでハッと我に返ったアルトは、慌てて駆け出した。
「何でもない!今行くよー!」
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