第84話 バラット商会
ギルマスに貰った地図の通りに進むと、立派な建物が見えてきた。
おそらくあれがバラット商会の商館だろう。
一行が商館の入り口から中を覗くと、従業員らしき人や商人らしき人たちが忙しなく動いているのが見えた。
すると、にこやかな笑みを浮かべた男性がキースに話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。バラット商会のタカートと申します。当商会に、どういったご用でしょうか?」
「冒険者のアルトとそのパーティーメンバーです。商会長のラルゴ氏に用がありまして…取り次いで貰えますか。」
「生憎と商会長は多忙でして…失礼ながら、お約束はされておいでですか。」
「約束、というか…これをラルゴ氏に見せて貰えればわかるかと。」
そう言ってキースはアルトから受け取った依頼書をタカートに手渡す。
「お預かりします。こちらにて少々お待ちくださいませ。」
近くの長椅子をアルト達に勧め、タカートは依頼書を持って商館の奥へと消えていった。
アルト達が長椅子に座って商館の中をキョロキョロと見回していると、ほどなくしてタカートが戻ってきた。
「お待たせいたしました。どうぞこちらへ。」
彼に案内されるままについていくと、豪華な応接室へと通された。
「どうぞ。」
促されて中に入ると、そこにはたっぷりとした口髭を蓄えた、恰幅の良い中年の男性が待っていた。
「おお、君たちが…ようこそおいでくださいました。ささ、どうぞ掛けてください。」
アルト達がソファに座ると、その正面のソファに男性が座る。すかさず、タカートが皆にお茶を出し始める。
「ラルゴ・バラットと申します。お礼を言う立場で相手を呼びつけるなどという不躾な願いを聞いてくださり、ありがとうございます。」
「ええと、気にしないでください。ギルマスさんから忙しい人だと聞いていたので。」
遠慮がちにアルトが口を開くと、ラルゴの眉がピクリと動いた。
「ああ、驚かせてすみません。」
ラルゴの様子を見て、キースが口を挟む。
「ニシャの実を手に入れたのは、ここにいるアルトです。俺…キースとこちらのレシェンタはその後に彼とパーティーを組んだもので…この件に関しては部外者です。とはいえ今はパーティーメンバーですから、勝手ながら同席させて貰ってます。」
「そうでしたか。これほどお若い方だとは…いや、年は関係ありませんな。アルトさん、この度は娘の命をお救い下さり、本当にありがとうございました。」
そう言って深々と頭を下げるラルゴ。
「その…僕がその木の実を持っていたのは、本当に偶然だったんです。だからそんなに頭を下げないでください。」
「いやいや、本当にありがとうございました。そうだ、もしよろしければうちの店にいらっしゃいませんか。」
ラルゴの提案に、首を傾げるアルト。
「冒険者ならば、武器や防具、ポーションなど色々とご入用でしょう。さすがにタダでとは参りませんが、お安くしますよ。もちろんパーティーメンバーのお二人も。」
思いもよらない申し出に驚いたアルトは、どうしようかとキースとレシェンタに助けを求める。
キースは大きく頷き、ここは自分に任せてほしいと仕草で伝える。
「ありがとうございます。ではせっかくなので、お言葉に甘えさせてもらいます。だがアルトは元来遠慮深い性分ですし、今も相場価格の勉強中なんです。惜しいですが、値引きはほどほどにしてくださいよ。」
キースの言葉に、一瞬虚を突かれたような表情をしたラルゴだったが、直後に大笑いした。
「わかりました。お若い冒険者さんがのちのち困らないよう、適度に値引きするとしましょう。」
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