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第83話 必死だったってことだ

ギルマスの話はこうだった――



依頼主はバラット商会の商会長、ラルゴ・バラット氏。


バラット商会とは、レカンタの街でも随一の商会である。

商会長であるラルゴ氏はかなりやり手の商人。

その店舗はレカンタの街だけでも数店あり、他の街や王都にも店舗を構えている。


彼には幼い娘がおり、彼女は難病に苦しんでいた。

しかし最近になって、その病の画期的な治療薬が開発された。

その材料となるのは、森の奥でしか採れない貴重な木の実――ニシャの実だった。


彼は商人としての伝手を尽くしてニシャの実を探し求めたが、手に入らなかった。

冒険者ギルドにも依頼したが、報酬目当てに偽物を持ってくる者ばかりで、全く当てにならなかった。

(偽物を持ち込んだ不心得者には、ギルドから警告や罰金などの処分が下った。)


しかし先日、不意にニシャの実がギルドに持ち込まれた。

その情報をいち早く入手した彼は、早急にニシャの実を買い取って薬にし、かくして無事娘の病は完治した。


そして、娘の命の恩人である件の冒険者に感謝の気持ちを伝えたいと、ラルゴ氏から申し出があった。

とはいえ、彼も商会の長として忙しい身。

いついるかもわからない、おまけに顔も知らない冒険者を訪ねて何度も冒険者ギルドを訪ねる時間はない。


恩人に対して無礼は承知の上だが、冒険者の方から出向いてもらいたく、指名依頼を出した。


形式上“指名依頼”と呼んではいるが、ラルゴ氏にはアルトの名は伝えていない。

あの買取品を持ち込んだのが誰かというのは、冒険者ギルド内ではギルマスとダンテしか知らないままである。



「で、この報酬はもともとはニシャの実の採取依頼の報酬だったわけだ。」


「ちょっと、何の話なの?」


話についていけず、ヒソヒソとキースに尋ねるレシェンタ。


「あー…以前、アルトが冒険者になるまでに貯めこんでた素材やらをまとめて売ったんだ。そのうちの一つが、どうやら薬の原料になるニシャの実だったらしい。」


キースの解説に、目を見開いて驚くレシェンタ。


「え、アルトってば冒険者になる前から素材集めなんかしてたの?」


「悪いレシェンタ、その話はまた後でな。」


レシェンタとのヒソヒソ話を切り上げ、戸惑っているアルトの方に目をやるキース。


「娘の命の恩人か…アルト、また随分と大ごとになっちまったな。」


キースはそう言ってニヤリと笑い、アルトの背中をバシバシと叩く。


「え…っと、ちょっと待ってください。そのラルゴさんは、ニシャの実を買い取ったんですよね?その上僕に会うためにお金を払うなんて…」


「それだけ、娘のために必死だったってことだ。商人であるラルゴ氏からすれば、金はまた稼げばいいってことだろう。」


腑に落ちない顔をしているアルトに、ギルマスは更に言葉を続ける。


「本気でアルト…恩人の冒険者に会いたがっていたからな。調べた限り、詐欺や罠の可能性はない。彼に会いに行って貰えるか。」


「わかりました。でもお金は…」


「受け取っておきなさいよ、アルト。それが彼なりの感謝の気持ちなんだから、断ったり返したりするのはかえって失礼よ?」


「私も、ブローチを受け取った。」


「そうよアルト。貰っておきましょうよ!」


レシェンタとコハク、エメラに説得され…というか圧に押され、渋々頷くアルト。


「うぅ…わかったよ。ギルマスさん、キース達も一緒に行って大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だろう。この3日間は商館にいられると言っていたから、今からでも行ってみるといい。この依頼は特殊だから、受注処理はこちらでやっておく。手形代わりに、この依頼書を持って行け。」


ギルマスの差し出した依頼書を受け取るアルト。


「ありがとうございます。行ってみます!」

読んで下さってありがとうございます。


誤字脱字、読みづらい等ありましたらご指摘くださいm(__)m

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