第82話 指名依頼
領主夫妻にとっては、コハクだけでなくアルト達全員が“恩人”という扱いになったらしい。
“いつでも力になる”“困ったことがあったら頼ってほしい”と言われてしまった。
「力になるっつっても…爵位なしの領主サマだったら、この界隈でしかその名は通用しないだろ?ま、それでも十分助かるんだろうけど。」
ガタゴトと馬車に揺られながら、ポツリと呟いたキース。
「何言ってるのよキース。あの家の方々は、今でも貴族の間では顔が利くのよ?」
レシェンタの話では、今の代の王家からはあの家…もとい領主夫妻に対して爵位を与えたいと何度も打診をしているとのこと。
しかし、今のままでも特段問題ない――本音は貴族のしがらみや社交諸々が面倒――という理由で、領主夫妻はそれを丁重に断っているのだとか。
代々の領主の実力や人徳の賜物だろうか、領主一家と一部の貴族たちとの間では今でも“友”として交流が続いているのだ。代々の領主の人脈は途絶えるどころか、むしろ広がってすらいるらしい。
「凄い人たちだったんだね。とっても優しくていい人だったし、僕、領主様も奥様も大好きだよ!」
「ああ、あの人たちが好きだってのは、俺も同感だ。」
「私もよ。」
アルトの無邪気な言葉に、表情を綻ばせるキースとレシェンタ。
「…私も。だから安心して首飾りを託せた。」
「もちろん私も大好きよ!」
「にゃあ~!」
◇
翌日、アルト達が次の依頼を見繕おうとギルドに顔を出すと、なぜかギルマスに呼ばれた。例によっていつもの別室対応である。
「これ、お前たちに指名依頼だ。正確にはアルトに…だがな。」
そう言って手渡された依頼書に目を通すアルト。
「えっと、これって…?」
アルトが戸惑っていると、内容が気になったキースも横から依頼書を覗き込む。
レシェンタも依頼の内容には興味を持ったが、自身は冒険者ではないので大人しく座っている。
「なになに…は?え、これ何かの間違いじゃないですか?」
依頼の内容に驚いたキースは素っ頓狂な声を上げ、目を丸くした。そんな反応も予想していたのか、落ち着いて答えるギルマス。
「ああ、俺も何度も確認した。間違いない。」
依頼書にはこう書かれていた。
“依頼書発行日より3日以内にバラット商会の商館を訪ねること”
依頼書発行日は昨日の日付。つまり、期日まであと2日。
期日が設定されているとはいえ、指定の場所を訪ねるだけで破格の報酬――普通に考えて、あり得ない。通常ならばミスか何らかの罠を疑うレベルだ。
「詳しく、聞かせて貰えますか。」
「ああ、それがな…」
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