第8話 魔獣とは
旅の同行者となったエメラは、アルトに色々なこと――森のことや精霊のこと、それに魔法のことなど――を教えてくれた。
村の外の世界のことをほとんど知らなかったアルトにとって、エメラの話はどれも新鮮で興味深いものだった。
その中でも特に驚いたのは、“魔獣”と呼ばれる生き物の存在だった。
―――魔獣とは、魔力を持った動物たちのことである。
普通の動物よりも強いものが多く、知能が高かったり狂暴だったりする。精霊も“魔力を持つ知能の高い存在”だが、魔獣とは違って神聖視されている…らしい。(エメラ談)
アルトが魔獣の存在を知らなかったことに、エメラも驚いていた。
実際は、アルトの生まれ育った村周辺にも、普通の動物より少し強いくらいの魔獣は生息していた。しかし、辺境の村には“魔獣”という呼称は伝わっておらず、村人たちは単に“危険な動物”“凶暴な獣”といった認識でいたのだ。
ちなみに、アルトが腕試しにと狩った“動物”の中には、村周辺に生息していた魔獣も一部含まれていた。しかし、アルトがそのことを知るのはもう少し先のことである。
アルトにとってエメラとの旅は、一人旅よりもずっと楽しく、驚きと発見に満ちた旅だった。
森に詳しい彼女は、本に載っていない果物や木の実のことも教えてくれた。美味しいもの、美味しくないもの、人間には毒になるものなど、いろいろあった。
本来、精霊は魔力さえあれば、人間のように食べ物を食べる必要はない。精霊の魔力はマギアのそれと同様に、休んでいれば回復するのだ。しかし、味覚はあるらしく、嗜好品として果物などを食べることはあるそうだ。
エメラと旅をしていくうちに、アルトの魔法の使い方も変わってきた。というのも、自分がマギアであることを明かしたアルトに、エメラが魔力や魔法の使い方を教えるようになったからだ。
「僕、実は魔力をもつ人間…マギアなんだ。」
「やっぱり!そうだろうなとは思ってたわ。そもそも、魔力がないと私を助けることなんて出来なかっただろうしね。」
さほど驚いた様子のないエメラの言葉に、それもそうかと納得するアルト。
「でも僕、自己流で訓練してきたから、正しい魔力や魔法の使い方とかがよくわからなくて…エメラに教えてほしいんだ!あ、それとも、精霊と人間とじゃあやり方が違うのかな?」
「うーん…ごめんなさい。それはよくわからないわ。私は人間のマギアが魔法を使っているところを見たことがないの。だから、使ってる魔法が同じかどうかは知らないのよね。」
「そっかぁ…」
残念そうに肩を落とすアルトに、エメラが慌てて付け加える。
「で、でも!私のやり方をアルトに教えることはできると思うわ。精霊のやり方を人間のアルトが実践できるかどうかはわからないけど、試してみましょうよ!」
「うん、そうだね!」
エメラの心配は杞憂だったようだ。素直なアルトはエメラの説明やアドバイスを聞いて、その通りに次々と実践していった。
「魔法を使うには、より明確にイメージすることが大切よ。物を浮かすとか、風を起こすとか、この魔法で何をするのかをはっきりと想像するの。」
エメラからそう助言を受けたアルトは、よく使う魔法には名前を付けて使うようにした。そのおかげで、以前よりも魔法の発動が早くなったり、コントロールしやすくなったりした。
例えば、音を遮断する【無音】や自分の周囲に見えない壁を張る【障壁】、傷を癒す【治癒】などだ。
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