第75話 加減しろって言ったろ
「本当に凄いのね、アルトの【魔力感知】って。」
コハクと出会った場所から、来るときと同様に何度か回り道をしつつ帰路を進む一行。その道中、一度も魔獣に出くわさずにすんだのは、ひとえにアルトの【魔力感知】のおかげといえるだろう。
「ああ、本当に大したモンだよ。」
二人からの絶賛の言葉に、照れくさそうにするアルト。
「でも、せっかくのダンジョンだったのに、私はほとんど活躍できなかったわね。」
「そんなことないよ。レシェンタさんの【光球】のおかげでとっても明るくて歩きやすかったもの。それに、フランチェスカ姫の首飾りのこと、僕たちは何も知らなかったし…」
「ふふ、ありがとうアルト。」
必死にフォローしようとするアルトの言葉に、クスリと笑みを漏らすレシェンタ。
「【光球】は基本的な光魔法よ。そんなに難しい魔法じゃないから、アルトもきっとすぐに覚えられるわよ。ダンジョンを出たら教えてあげるわね。」
「本当!?ありがとう!」
出口ももうすぐそこに見えてきて、ダンジョン探索も終わりかと緊張感を緩めているレシェンタたち。
しかし――
「お前ら、ちょっと待て。」
ほのぼのとした会話を断ち切ったのは、緊張感を滲ませたキースの声だった。
「どうしたのよ。」
怪訝な表情をしたレシェンタが、小声で聞き返す。
「外に人の気配を感じる。それも一人や二人じゃない。」
「冒険者かな?」
アルトの質問に、首を振りつつ答えるキース。
「いや…冒険者なら、会話もなく入り口のすぐ外で待つ理由がない。俺たちみたいに打合せをしているでもなく、かといって入って来る様子もない。妙だな…」
キースがううんと唸っていると、コハクとエメラが口を開いた。
「嫌な感じがする。」
「ええ。私もコハクと同意見だわ。悪意を持った人間の気配がする…これ、嫌いよ。」
ふたりの精霊が揃って苦々しげに口にした言葉。それは、外にいる人間が悪人であることを如実に物語っていた。
「決まりね。外にいるのは悪党。」
「ああ。おおかた、ダンジョンから出てきた冒険者の戦利品狙いってとこだろうな。たまにいるんだよ、そういう小狡い連中が。」
「えぇ!?」
顔を見合わせて頷き合うレシェンタとキース。アルトはそんなことをする人がいることに驚いている。
「じゃ、私が相手してきてもいいかしら。」
「おい、大丈夫なのか。」
買い物にでも行くかのように出ていこうとするレシェンタを、真剣な表情をしながら小声で呼び止めるキース。
「あらキース、心配してくれてるの?」
「相手の、な。ちゃんと加減してやれよ。」
「はいはい、わかってマース。」
そう言って軽やかな足取りで出口へ向かうレシェンタ。キースは頭を掻きながら、その様子を見送る。
「本当かよ…ったく。」
レシェンタが行ってしまった直後、アルトは慌ててキースに駆け寄る。
「ねえキース、レシェンタさん一人で行っちゃったけど…大丈夫なの?」」
「あー…大丈夫じゃないかもな。」
心配そうに見上げてくるアルトに、ポツリと返事を返すキース。
「そんな!だったら助けに行ってあげなきゃ…」
「相手の方が。」
「え?」
思いもしなかったキースの返答に、目を丸くするアルト。
「あいつ、ダンジョンで活躍できなかったってボヤいてただろ?あの様子じゃ結構鬱憤が溜まってるみたいだったから、外の奴らで発散したいんだろう。」
「溜まった鬱憤を…発散?」
「そう。だから今頃派手な魔法をぶっ放してると思う。加減しろとは伝えたが、どうなってることやら。」
キースの言葉に被せるように、出口の外から何やら物音が聞こえてきた。
その音が収まって10秒ほど待ち、外に出てみると――
妙にすっきりした表情のレシェンタと、あちこちで倒れている男たちがいた。
その数なんと7人。中には服や髪が焦げている者もいるようだ。
よく見てみると、地面にも焦げた跡がちらほらあり、更にあちこち抉れている。
「あら皆。ちょうどよかった、今終わったところよ。」
「お前な…加減しろって言ったろ?」
「ちゃんとしたわよ。」
「これでか?」
これで、と言いながらキースが指す先には、倒れた傷だらけの男たちと、あちこち焦げたり抉れたりした地面。
「ん-…ちょっと力が入りすぎちゃったかも?何せ相手は7人もいたわけだし。」
そう言ってペロッと舌を出すレシェンタ。
「ちょっとじゃねえだろ…まあ、全員生きてるみたいだし、怒られるとしたらレシェンタだけだからいいか。んじゃ、こいつら縛って街まで連れて行くぞ。」
そう言って、自分の荷物からロープを取り出すキース。
「レシェンタさんって凄いんだね。回復魔法も上手なのに、攻撃魔法も強いなんて!」
「そりゃあ…ね。一芸だけじゃ、宮廷魔導士は務まらないわ。」
目をキラキラさせて褒めてくるアルトに、満更でもない様子のレシェンタ。
「おいレシェンタ、お前も手伝えよ。」
「はいはい、わかってるわよ。」
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