第74話 暇だったから
光が収まって薄暗さに再び皆の目が慣れた頃、エメラが口を開いた。
「これからよろしくね、コハク。精霊の仲間が増えてとっても嬉しいわ。」
「…よろしく。」
「改めて、皆を紹介しておくよ。この子は僕の従魔で、一角黒豹のテナ。」
「にゃあ~!」
挨拶のつもりなのだろう、元気に鳴き声を上げるテナ。コハクはそんなテナの頭を優しく撫でる。
「それから、あっちにいる女の人の方がレシェンタさんで、その奥の男の人がキース。僕とキースは冒険者をしてるんだ。」
「レシェンタよ、よろしくね。」
「キースだ、よろしくな。」
ふたりの方へと目を向け、軽く会釈を返すコハク。先ほどキースへ向けていた警戒はもう解いたようだ。
「色々説明も必要だろうが、詳しいことはまた外で話そうぜ。結構長居しちまったしな。」
「そうだね。それじゃあ…コハク、何か忘れ物とかない?」
「おいおいアルト、精霊が忘れ物なんて…」
キースが笑っていると、コハクはアルトの袖を引いて部屋の奥へと向かっていく。
「あるのかよ!?」
キースの突っ込みに対して冷静に頷きを返したコハクは、他の皆にもついてくるよう促す。
「結構量があるから、持てるだけ持って行ってほしい。私には必要ないものだから。」
コハクが案内した部屋の端――狭い空間なので数歩程度で着いたのだが――には、たくさんの鉱石や宝石が小さな山を作っていた。
「わぁ!」
「キレイー!」
「にゃ、にゃ~。」
「え、ちょ、これ…まじか。」
「なになに?…わぁお、凄いわね。」
目にした鉱石や宝石の山に、三者三様の反応を見せる一同。
「これ、一体どうしたんだ?」
「暇だったから、集めて色々していたら…こうなった。」
「え?」
コハクの返答に目を丸くするキース。
「土の中には様々な鉱石や鉱物が含まれている。それらを見つけてきたり、集めて精錬したり、研磨したり…時間はいくらでもあったから。」
暇だった、時間はいくらでもあった――これらの言葉には、100年分の重みがある。
フランチェスカとの約束を果たすためのその時間が、コハクにとって苦痛だったのかどうかは誰にもわからない。それでも、たったひとりで過ごすには長い時間であったことは確かだ。
「なるほどな。それでこの量か。」
「はー…簡単そうに言ってくれるけど、それって並大抵のことじゃないわよ。さすがは土の精霊ね。」
そう言いながら鉱石や宝石をいくつか拾い、眺めるレシェンタ。
「鉱石はどれも純度が高そうだし、宝石は…原石もあるけれど、カットされたものもあるのね。精霊も宝石に興味があるものなの?」
「それはコハクだからこそ、でしょうね。フランチェスカ姫のもとに居た頃、宝石やアクセサリーを見る機会はいくらでもあったでしょうから。」
エメラの推察に、頷きを返すコハク。
「アルト、それにキースとレシェンタも…いるだけ、持って行ってほしい。」
「え、いいの?」
アルトの率直な疑問に、黙って頷きを返すコハク。
「えっと、コハクはいらないの?せっかく作ったんでしょ?」
「精霊は人間と違って、そういったものは身に着けないし、使わない。ただの暇潰しで作っただけで、必要なものではない。」
コハクの返答に、どうすべきかと狼狽えるアルト。
「それならお言葉に甘えて、貰って行こうぜ。アルトのマジックバッグなら全部入るだろ。」
ニカッと笑いながら「はい決定!」と口にしたのはキースだった。
「このまま置いて行っても、他の冒険者に持って行かれるだけだしな。せっかくなら、コハクの契約者であるアルトの役に立てるべきだと思う。素材として何かに使うなり、売って財産にするなり、な。」
「キースにしてはいいこと言うわね。私もそうした方がいいと思うわ。」
「お前はいちいち一言余計だな。」
「何のことかしら。」
何やら言い合いを始めた二人をよそに、エメラがこそっとアルトに話しかける。
「私もキースの意見に賛成かな。私だったら、どこかの誰かに持って行かれるくらいなら、契約者の役に立ってほしいって思うわ。テナもそう思うでしょ?」
「にゃあ!」
皆からの説得で、アルトはようやく決心がついた。
「わかったよ。それじゃあ、せっかくだから全部貰っていくよ。その代わり、コハクも欲しいものがあったら遠慮なく言ってね。」
「……わかった。」
アルトのマジックバッグに鉱石やら宝石やらを全て詰め込み、ダンジョンの出口を目指す一行。
鉱石は割と重かったので、中身の重さを感じないように魔法をかけておいてよかったと心底思ったアルトだった。
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