第73話 同じ名前
「ところであなた、王女との約束を果たして…その後はどうするつもりなの?」
エメラの問いかけに、土の精霊は感情の読みづらい表情のまま首を傾げる。
「?…どうもしない。今まで通り、ひとりでいる。」
「そう…」
エメラはチラリとアルトの方を見る。その視線の意味を察したアルトはテナと顔を見合わせたのち、一緒に大きく頷いて見せた。続けてキースとレシェンタの方を振り返ると、彼らも笑顔で頷きを返した。
皆のその様子に嬉しくなったエメラは、思わずくるくると空中に輪の軌跡を描いて飛び、喜んだ。
そんなエメラの様子に目を丸くする土の精霊に、アルトは話しかける。
「ねえ、よかったら僕たちと一緒に来ない?」
「一緒に…?」
「あなたも私みたいにアルトと契約して、一緒にあちこちを冒険してみない?きっと楽しいわよ!」
「にゃあ~!」
エメラたちの言葉に、土の精霊の脳裏には遠い昔の記憶がフラッシュバックする。
―――もし私が王女でなかったなら、あなたと一緒に、あちこちを冒険してみたかったわ。
(フランチェスカ…)
一筋の涙が、静かに土の精霊の頬を伝った。
それにぎょっとしたアルト達は慌てる。
「ご、ごめん!急にこんなこと言われてびっくりしちゃうよね。あの、嫌だったら全然、契約なんてしな…」
「違う、これは何でもない。大丈夫…あなたと契約する。」
「くて…え、あ、え?あ……そう、そっか。よかったぁ。」
ぐいっと涙を拭いながら精霊が口にした言葉に、ほっとするアルトと、その後ろで胸を撫で下しているキースとレシェンタ。エメラとテナは仲間が増えるのが嬉しいのか、ニコニコしている。
「それじゃあ君の名前を考えなきゃ。あ、前にも契約してたってことは、王女様がつけた名前もあるんだよね?」
アルトの言葉に、土の精霊は静かに首を振る。
「次の契約者は、あなた。だから、あなたの決めた名前で契約する。」
「そう?わかったよ。それじゃあ…」
取り出して掌に乗せた土の魔力の魔法石を見ながら、少し悩んで名前を考えるアルト。
「琥珀…コハクっていうのは、どうかな?」
その時、再び土の精霊の脳裏に、在りし日のフランチェスカの声が蘇る。
―――あなたの瞳、琥珀色に透き通ってキラキラしてて、まるで宝石みたいね。琥珀って、私の大好きな宝石なのよ。そうだ!あなたにも同じ名前をあげるわね。
少しの間、沈黙していた土の精霊。その反応に、またもや不安になるアルト。
「あの、気に入らなかったなら別の名前に…」
「コハクでいい…ううん、コハク“が”いい。」
「そっか、よかった。」
口元に微かに笑みを浮かべた土の精霊の返答に、心から安堵するアルト。
「それじゃあ、この魔法石に触れてくれる?これには僕の魔力が詰まってるんだ。」
「?……わかった。」
初めて見る魔法石なるものに疑問符を浮かべる土の精霊だったが、素直に頷いて手を伸ばす。
「えっと…これからよろしくね、コハク。」
「よろしく、アルト。」
土の精霊――コハクの手がアルトの差し出した魔法石に触れた瞬間、部屋の中は淡い琥珀色の光に包まれた。
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