第70話 フランチェスカ
100年ほど前の話―――
フランチェスカというのは、土の精霊の当時の契約者だった女性の名だ。
彼女はとある国の王女であった。民を愛し、民からも慕われる、美しく心根の優しい王女だった。
しかし、彼女の祖国が隣国との戦争に負けたことにより、彼女の人生は一変した。
敗戦の折、祖国の民たちを無下に扱わないことを条件に、フランチェスカは戦勝国である隣国の貴族のもとへと嫁ぐことになったのだ。
輿入れの直前に、フランチェスカは契約精霊であり友人でもあった土の精霊に、ある頼みごとをした。
「私の存在は、きっと隣国の方々には快く思われないでしょう。」
その言葉に、土の精霊は表情を曇らせた。
「何も持つ必要はない、ただ身一つで嫁ぐように、と言われたけれど…お母様の形見であるこの首飾りだけは、どうしても守りたいの。このお城には置いていけないし、かと言って公爵家へ持っていくこともできない。」
フランチェスカの手には、美しい首飾りがあった。それ以外にもアクセサリーは沢山あったが、彼女にとってこれは特別なものなのだ。
「だから――あなたが守っていてくれる?いつか、この首飾りを大切にしてくれる、心の優しい誰かに渡してほしいの。あなたが選ぶ相手なら、きっと間違いないわ。私はそう信じる。」
必死に頼み込むフランチェスカに、土の精霊は首を振る。
―――私はフランチェスカと一緒に居たい。契約精霊としてずっと傍で支えて、あなたを助けてあげたい。
「ダメよ。精霊は悪意や害意には敏感なのでしょう。」
いつでも誰にでも優しいフランチェスカにしては珍しく、はっきりとした否定の言葉だった。その様子に気圧され、土の精霊も少したじろいでしまう。
これが王女の威厳というものなのだろうか。
「この戦争で、あちらの国の方たちも大勢亡くなったわ。敵国の王女であった私には、憎悪や怨嗟…様々な負の感情が向けられるでしょう。そんな私のそばに居れば、精霊のあなたはきっと弱ってしまう。そんなのは、私が嫌なの。」
―――それはフランチェスカだって同じ。優しいあなたが傷つくのを、放っておけるわけがない。
「私は王女だもの…国のしたことの責任を背負う義務がある。祖国に対する正当な怒りならば、私はそれを受け止めなくてはならないの。でも、それは私たち人間同士の話。本来、精霊のあなたには関係のないことよ。」
―――関係なくなんてない。契約したのなら、私はあなたと運命を共にするべき。私はフランチェスカと一緒にいる。
「気持ちはとても嬉しいわ。でも、やっぱりダメよ。あなたが守ってくれなければ、この首飾りは誰かに奪われてなくなってしまうわ。お願いよ、あなたにしか頼めないの。どうか…この首飾りを守ってちょうだい。」
フランチェスカの必死の懇願に、土の精霊はとうとう根負けした。
土の精霊はフランチェスカの輿入れの荷物に紛れて、首飾りと共に隣国――この国へとやってきた。
そして、彼女の言った“心優しい人”を探したのだが…なかなか見つからなかった。
見知らぬ土地で、見つかるかどうかもわからない人間を闇雲に探すのは余りに無茶だった。それに気づいた土の精霊はどこか落ち着ける場所で、首飾りを守りながら“心優しい人”を待つことにした。それがこのダンジョンだったのだ。
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