第69話 土の精霊
「ここよ。この壁の向こう。」
エメラが指す先は、その言葉通りどう見ても行き止まりだ。キースの地図を見ても、その先に道や空間があるような印はない。
しかし、この状況でエメラを疑う者はここにはいなかった。
テナもアルトの肩に乗ったまま、ふんふんと鼻を鳴らして壁の向こうの気配を探ろうとしている。
「アルト、ここに穴を開けられるか。洞窟を壊さないように、攻撃魔法以外で頼む。」
「わかった。【土造形】」
アルトの魔法で、前方の壁の土が徐々にその形を変えていく。
壁の向こうには物置くらいの大きさの、小さな空間があった。
そこにはエメラやレシェンタの予想通り――――ひとりの精霊がいた。
「よかった、来てくれた。」
薄暗い空間の中に佇み、琥珀色に淡く光るその精霊は、呟くように言葉を発した。
その言葉からは、やはりエメラの言う通り“誰か”を呼んでいたことがうかがい知れる。
「あなたが声の主ね。私は風の精霊――エメラよ。」
「…私は土の精霊。まずは中に入って。魔獣が入ってくると危ないから、入り口を閉じたい。」
土の精霊はそう言ってキース達が中に入るのを確認したのち、アルトが開けた穴を土魔法で塞いだ。
ふわふわと浮かぶ【光球】と、ふたりの精霊の淡い光が、空間内を照らしている。
「安心して。空気穴は開けてある。」
閉じ込められたことに少し身構えていたキースとレシェンタだったが、土の精霊の配慮を感じて少しだけ警戒を緩める。
「声に気づいてくれてよかった。ずっと……待ってた。」
エメラとは違って表情や感情の変化がわかりづらい精霊だが、その言葉はどこか安心したような、ほっとしたような響きを含んでいる。
「待ってたって…私を?それとも、精霊を?」
「半分正解。正確には、精霊と契約した人間。精霊に認められる程の、心優しい人間。」
そう言って、土の精霊はエメラの後ろの3人を順に見つめる。魔力を感じるからか、レシェンタとアルトに目を止める時間が少し長い。
「どの人が、あなたの契約者?」
「教えてもいいけど、その前に聞いてもいいかしら。ひとりでダンジョンで、何をしていたの?それに、ほかの精霊の契約者に何の用なの?」
エメラはほんの少しだけ警戒心を滲ませた様子で問いかける。
精霊は邪悪な存在にはなりえない。したがって、この土の精霊が自分の意志でアルト達を傷つける可能性は低い…が、精霊は契約者の敵に対しては攻撃をすることもある。エメラがアルトと一緒に剣大蛇を攻撃したように。
土の精霊が契約者に何かを頼まれていた場合、それがアルトを傷つける可能性もあるのだ。
「私はある物を渡すために、心優しい人を待っていた。ここにいたのは、土の魔力が満ちていて居心地がよかったから。」
その言葉に、周囲をぐるりと見まわす一同。
土の精霊の言う通り、ダンジョン内には魔力が満ちているのを、キース以外は感じ取ることができた。特にこのダンジョンは洞窟型なので、土の精霊にとっては居心地がよかったというのも頷ける。
レシェンタが何か言いたそうにしていたが、キースが止めた。ここはまずエメラに任せようと、目配せと身振りで示す。
「渡すって、何を?」
「とてもとても大切なもの。大丈夫…悪いものや、渡した相手を傷つけるようなものじゃない。」
その言葉に納得したのか、エメラはチラリと後ろを振り返る。
アルトは「いいよ」という意思を込めて、大きく頷いた。
レシェンタもキースも、相手が精霊であることと今のやり取りの内容から、警戒は解いているようだ。むしろ二人とも、何を渡すつもりなのかと興味の方が勝っている雰囲気すら感じられる。
「わかったわ。私の契約者はこの人―――アルトよ。」
「ありがとう…アルト、あなたにこれを受け取ってほしい。」
そう言って土の精霊が差し出した箱の中には――――大きな宝石の輝く、見事な首飾りが入っていた。
アルトは手をぶんぶんと振って狼狽える。
「こ、こんなの受け取れないよ。誰かの大事なものでしょ?」
「そう。これは彼女の――フランチェスカの大切な首飾り。母の形見だと言っていた。」
「でしょ!?じゃあ…」
アルトの言葉を遮るように首を振る土の精霊。
「そのフランチェスカも、もういない。人の寿命は短いから…もう随分前にこの世を去ったはず。」
そうして、土の精霊は語り始めた。
読んで下さってありがとうございます。
誤字脱字、読みづらい等ありましたらご指摘くださいm(__)m
ブックマークや、評価の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして応援していただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




