第68話 声
その後、無事に目的地であるキテシャ茸の群生地に辿り着いた一行。群生地というだけあって、沢山のキテシャ茸の青白い光が周囲を照らし、幻想的な光景が広がっていた。
周辺に魔獣が潜んでいないことを確認したのち、キースが指示を出す。
「それじゃ、依頼にあった通り10本だけ…一人2本ずつ採ってくれ。ここの生き物や他の冒険者が困るといけないから、必要数以上の採取はしないように。」
「「はーい。」」
「にゃあ~」
小声でも元気に返事をして、アルトたちはそれぞれ収穫に向かった。
そんな様子を横目に、レシェンタは感心したようにキースに話しかける。
「へー、ちゃんと先輩冒険者っぽいことも言うのね。」
「“ぽい”ってなんだよ。せめて“らしい”と言ってくれ。」
各自2本ずつの採取なので、文字通りあっという間に終わってしまった。
テナは爪を、エメラは風魔法を使って、器用にキノコを採っていたようだ。
「よし、それじゃあ帰ろうか。」
集まったキテシャ茸をマジックバッグにしまい、ぐっと伸びをするキース。
「ええ~!もう帰るの?せっかく来たんだからもうちょっと探検しましょうよ。」
不満げに口をとがらせるのはレシェンタだった。
「来るときにも言っただろう。今回はレベル上げが目的ってわけでもないんだから、長居は無用だ。」
取り付く島もない様子のキースに、レシェンタはブツブツ言いながらも渋々腰を上げる。
皆が帰り支度を始めたその時―――
『 』
「え?」
急に振り向き、きょろきょろと周囲を見回すエメラ。
「どうしたの、エメラ?」
「気のせいかしら。何か聞こえた気がするんだけど…あ、ほら、この声よ。」
エメラの言葉に、キース達も手を止めて聞き耳を立てる。
「………」
「何も聞こえないぜ。」
「おかしいわね。確かに聞こえたと思ったんだけど…」
『 』
「ほら。やっぱり気のせいじゃないわ。聞こえたでしょ?」
「あー…悪いが、俺には何も聞こえないぜ。」
キースの言葉に、遠慮がちに頷くアルトとレシェンタ、そしてテナ。
「そんな…皆どうして聞こえないの?」
眉尻を下げて項垂れるエメラに、アルトがそっと手を差し出す。
「エメラ、落ち着いて。誰も君のことを疑ってなんていないよ。どんな声が聞こえるのか、詳しく教えてくれる?」
「…ええ。」
アルトの掌に座り、目を閉じて声に意識を集中させるエメラ。
「……誰かが、呼んでるみたい。こっちへ来て、自分を見つけてって…」
「誰かが迷子になってるのかな。」
「あくまで憶測だけど…エメラにしか聞こえないのなら、声の主も精霊なのかもしれないわね。」
レシェンタの言葉に、ハッとしたように目を見開くエメラ。
「そう…そうよ。これ、精霊の詞だわ。だから皆にはわからなかったのね。」
精霊の詞――精霊同士のやりとりで使われる特殊な言葉。魔力の有無に関わらず、人や動物、魔獣には聞き取ることができないとされている。
「誰かが呼んでるなら、応えた方がいいよね。」
「にゃあ。」
「そうね。精霊なら邪悪な存在のはずはないでしょうし。」
ここで皆の視線がキースに集中する。その視線に耐えられず、キースは大きなため息をついた。
「はぁ~…わかったわかった。皆で行こう。ただし、ここがダンジョンの中だってことは忘れるなよ。ちゃんと警戒は怠らないように。」
キースの言葉に、皆は「はーい」とにこやかに返事をした。
「ありがとう、それじゃあ行きましょう。ついて来て。」
一同は周囲に気を配りつつ、ふわふわと飛ぶエメラの後を追った。
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