第7話 風の精霊
光が収まり、恐る恐る目を開けたアルトの視界に飛び込んできたのは、緑色の大きな瞳をパチクリさせ、首を傾げている小さな少女の姿だった。彼女はちょうどアルトの顔の前あたりに、ふわふわと浮かんでいる。
「あなたが私を助けてくれたの?」
透き通るような不思議な声で、少女は尋ねた。
「ええっと…うん。たぶん、そう…かな。」
助けようとしたのは本当だが、緑色の魔法石を使ったのは偶然だった。
偶然の力を借りず、自分の力だけで彼女を助けることはできなかっただろう。だからアルトは、胸を張って「自分が助けた」とは言いづらいのだ。
「そうなのね、ありがとう!おかげで助かったわ!あなたが魔力を注いでくれなかったら、私消えちゃうところだったわ。」
「消えちゃう?」
倒れるだとか死ぬだとかではなく、消えるという変わった言い回しにアルトは首を傾げた。
「ええ、私みたいな精霊は、魔力を失うと消えちゃうの。住処にしていた森の力が弱ってきていたから、そのせいだと思うわ。」
「精霊?」
またもや、アルトにとっては耳慣れない言葉だ。
「そうよ。私は風の魔力を司る精霊。」
自分以外の魔力をもつ者に初めて出会えたと感じたアルトは、この小さな精霊に親近感がわき、とても嬉しくなった。
「そっか!僕、精霊って初めて見たよ。僕はアルト、よろしくね。」
「よろしく、アルト。何かお礼をしなきゃね。」
手を差し出したアルトの指先に、精霊がポンと手の平を当てて握手(?)に応え、微笑んだ。
「お礼なんていいよ。ところで、精霊さんはこんなところで何をしていたの?」
精霊の話によると――
もともと住処にしていた森の力が弱まってきており、新しい住処となる場所を探して彷徨っていた。しかし、想像以上に自身の力が弱まっていたために、いつの間にか魔力が尽きて、倒れてしまった――ということらしい。
「だからアルト、助けてくれて本当にありがとう!」
「わぁ…大変だったんだね。役に立ててよかったよ。」
「アルトはここで何をしていたの?」
周囲をキョロキョロと見回しながら、精霊は尋ねる。確かに、子供が一人でいるような場所ではない。
「僕は一人旅の途中なんだ。といっても旅に出たばかりだし、行き先も決まっていないんだけどね。」
「そうなの?じゃあ、アルトの旅について行ってもいいかしら?」
「それって、次の住処が見つかるまで僕について来るってこと?」
アルトとしては、この精霊から精霊のことや魔法のことなどを色々聞いてみたいと思っていたため、一緒に旅をしてもらえるのは大歓迎だった。
しかし、それがこの先ずっとのことなのか、すぐにお別れしてしまうのか、アルトには判断がつかなかった。
「そうじゃなくて…アルトさえよければ、一緒に旅をしたいなって。人間と旅をしてみるのって、楽しそうだし!」
どうやら前者だったようで、精霊の提案にアルトも嬉しくなった。
「そっか!僕も旅の仲間が増えるのは嬉しいよ。それじゃあ、これからよろしくね。えっと…そういえば、精霊さんの名前は?」
「名前なんてないわよ。森や湖に住んでいる自由な精霊は、皆そうなの。」
精霊にとっては名前がないのが普通だということに、アルトはとても驚いた。
「そうなの?それじゃあ、何て呼べばいいかな。他にも精霊さんがいるなら、“精霊さん”だと紛らわしいと思うんだけど…」
「それもそうね…じゃあ、アルトがつけてくれる?」
精霊からのまさかの提案に、アルトは驚いて声を上げた。
「え!?僕で良いの?」
「もちろん!」
突然の大役に慌てたアルトだが、精霊の期待に満ちた眼差しに押され、名付けを引き受けることにした。
「それじゃあ…エメラっていうのはどうかな?」
「エメラ……いいわね、気に入ったわ!」
こうして、アルトは風の精霊“エメラ”と共に旅をすることになった。
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