第63話 レシェンタの心配
「なんて子なの…話には聞いていたけれど、ここまでとはね。」
レシェンタは眼前で繰り広げられた一部始終に目を見開き、ポツリと零した。
剣大蛇を覆っていた巨大な氷の塊、風魔法で切断したらしい首の切り口、そして氷を融かした強力な炎魔法とその精密なコントロール。
そのどれもが自分と同じ宮廷魔導士レベルの魔法、下手をするとそれ以上かもしれないのだ。
言葉を失っていた彼女に話しかけたのは、キースだった。
「な、アルトは凄いだろ?」
「ええ、凄い…を通り越して、凄すぎるわ。」
得意げに胸を張るキースに対して、複雑そうな表情を見せるレシェンタ。彼女の視線は、大勢の人々に囲まれる幼い少年――アルトに向けられていた。
あの小さな身体に、これだけの力…正直、心配だ。
魔法に限ったことではないが、強すぎる力は持ち主の望むと望まざるとに関わらず、自身にも周囲にも影響を及ぼす。
場合によっては、その力が自身や他者を傷つけてしまうこともある。
彼が、今よりももっと強力な魔法を身に着けたら?
己の力を過信して、危険を顧みない無鉄砲な人間になってしまったら?
いつか魔法を制御しきれなくなって、その身を滅ぼすようなことになったら?
それならばいっそのこと、魔法のことなど必要以上に教えない方が彼自身のためではないのだろうか。
私に、彼を教え導く資格があるのだろうか。
とてもではないが、荷が重すぎる。
「…ンタ、おい、レシェンタ!」
「っ…何、どうしたの?」
キースに呼ばれていたことに気づいて、慌てて振り向くレシェンタ。
「どうしたの、じゃねえよ。深刻な顔してどうした?」
「そりゃ深刻にもなるでしょう。」
「?」
疑問符を浮かべるキースに、大きなため息をつきながら話すレシェンタ。
「ハァ~…いい?アルト君のあの魔法、どう考えても規格外よ。無詠唱、それも自己流の魔法であの威力とコントロール…正直言って、末恐ろしいわ。そんな彼にこれ以上魔法のことを教えるべきか否か、迷ってるの。」
「なんだ、そんなことか。」
「そんなことって何よ!こっちは彼の今後を案じて真剣に…」
「レシェンタさん、キース!」
アルトがこちらへ向かってきたので、慌てて言葉を飲み込むレシェンタ。
「よおアルト、お疲れさん。見てたぜ、今回のは特に凄い魔法だったな。」
「えへへ。キースに言われた通り、派手にやってみたよ。」
「本当に凄いわ。それにあんなに精密なコントロール、一体どうやって身に着けたの?」
レシェンタの言葉に、少し考えて答えるアルト。
「どうやってと言われても…水や炎を出せるようになった頃から魔法で料理をしていたので、そのおかげかも知れないです。」
「魔法で料理を?え、本当に?」
「はい。肉や魚を焼いたり、スープを作ったり…はじめのうちは焦げたり生焼けだったり、失敗ばかりでしたけど。」
アルトはおばば様と魔法の練習をしていたことを思い出し、少し目が潤みそうになるのをぐっとこらえた。
「そんな、信じられない…」
「なあ、それって凄いことなのか?」
本気で驚いているレシェンタに、キースが尋ねる。
「そりゃそうよ。かなり精密なコントロールが必要だもの。例えるならそうね…長剣で手の平大の彫刻を掘るくらいの難易度、とでも言えばいいかしら。」
「なんだそりゃ、んな滅茶苦茶な…」
レシェンタの例え話に、呆気にとられるキース。
「それだけ別次元の高等技術だってことよ。さっきの炎魔法もね。あれ、精霊の力は借りていなかったんでしょう?」
「はい。僕の実力を見せるいい機会だってキースに言われてたので、自分の力だけでやりました。エメラとテナはカバンの中で大人しくしてくれてましたよ。」
アルトの言葉に、しばし考え込むレシェンタ。そして、遠慮がちに口を開く。
「ねえ、アルト君。さっきは一度許可したけれど…私は君に魔法を教えていいのか、また迷ってるわ。君がそれ以上強くなってしまったら、大変なことになるんじゃないかって、心配なの。」
レシェンタの言葉に、静かに首を振るアルト。
「いいえ、やっぱり自己流ばっかりじゃ駄目なんです。お世話になったおばば様からも、力の扱い方を覚えなきゃいけないって言われました。」
「おばば様?」
「はい。」
アルトは、幼い頃おばば様に言われたことをレシェンタ達に話した。
その上で、自己流では駄目なのだと。
いつか大きな失敗をしてしまわないためにも、魔法のことをもっとよく知りたいのだと。
アルトの話をひと通り聞いたレシェンタは、ふっと表情を緩めた。
「そっか…アルト君は、私なんかよりもずっと大人みたいね。力の扱い方、大切な人を傷つけない――大切なことを、教えてくれる人が居てくれたのね。」
そして数秒の沈黙の後、顔を上げたレシェンタの表情は晴れやかだった。
「正直言って、アルト君ほどの魔法使いに私が教えられることがあるのか自信はないわ。でも、魔法のこと…特に光魔法のことは、私が知ってること全部教えてあげるわね。」
「ありがとうございます!」
そんな二人の様子を見て、やれやれと肩をすくめるキース。
(相変わらずレシェンタは心配性だな。アルトの素直さや真っ直ぐさ、何より魔法の熟練度を見てりゃ、心配なんてないってわかるだろうが。)
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