第62話 あの氷どうするんですか?
「こりゃ凄い。長いこと生きてきたが、剣大蛇の全体像なんて初めて見たぞ。」
「まったくじゃ。それにあの首の切り口…一体何を使えば、剣大蛇の首があんなにスッパリ切れるんじゃ?」
「それもですが、この氷ですよ。肝心の剣大蛇を、どうやって取り出せっていうんでしょう?」
口々に意見を出し合うのは武器や防具の職人たちだ。
巨大な剣大蛇の運搬は簡単にはいかない。そこで、現地である程度解体して、運べる大きさにして荷車で持ち帰ろう――とギルマスが考え、職人たちに声を掛けたのだ。
「ギルマス、あの氷どうするんですか?職人たちが“あれじゃ手が出せない”ってぶーぶー言ってますよ。」
そうギルマスに進言したのは黒髪のロンドだった。
「あー、そう言えばそうだな。報告から4時間もあれば粗方融けてると思ってたんだが…どうしたもんか。」
そう言って頭を掻くギルマス。その反対の手をトントンと突いて話しかけたのは、アルトだった。
「あの、もしよかったら氷を解かしましょうか?皆さん困ってるみたいですし…」
ヒョコっと現れたアルトにロンドは飛び上がるほど驚いたが、ギルマスのひと睨みで黙って縮まってしまった。
「そりゃ助かるが…って、そんなコトできるのか?」
「大丈夫だと思います。ただ、炎魔法を使うので、少し離れて貰えると助かります。」
即答するアルトに、ヒュウッっと口笛を吹くロンドだったが、再びギルマスに睨まれてそそくさとどこかへ行ってしまった。
「おお、そりゃあお安い御用だが…大丈夫か?さすがにこれだけ大勢の目の前で魔法を使うと、間違いなく街中の噂になるぞ。」
「いやいや今更でしょう。既にこんな大ごとになっちまってんですから。な、アルト?」
話に割って入ったのはキースだった。
「うん。えっと、キースにも言われました。子供だからって舐められないように、Bランク冒険者の実力見せてやれ、って。」
チラリとキースを見やるギルマスだったが、悪びれる様子のないキースと、純粋にやる気を出して目を輝かせているアルトを前に、大きなため息をついた。
「わかった、頼むよ。ただし、できるだけでいいから焦がしたり傷つけたりは最小限に頼むぞ。」
キョトンとしながら小首を傾げるアルトに、ギルマスは頭を掻きながら言い含める。
「お前らの報酬にも関わってくるが、あんな状態のいい剣大蛇の素材は、そうそう手に入らないからな。」
「わかりました。」
◇
ギルマスの指示で、やってきた一同と馬車、荷車などは剣大蛇を閉じ込めた氷の塊から少し距離をとる。
彼らの一団から数歩前に出るアルト。その姿に、各々の反応はまちまちだった。
あんな子供がと驚く者。
冗談だろうと小馬鹿にする者。
何をするのかと固唾を呑んで見守る者。
拍手や口笛で囃し立てる者。
しかし、それらの声はアルトには聞こえていない。
実は、アルトが彼らの周囲を【安全地帯】で覆っておいたのだ。もちろん雑音対策の意図などなく、彼らの安全確保のためであったのだが。
ほどなくして、深呼吸をしたアルトは両手を挙げ、氷の塊に向けて魔法を放った。
「【四面楚火】!!」
一瞬で、氷の塊を四方から囲むように、巨大な炎の壁が出現した。
その業火により、剣大蛇を覆う氷はみるみる融けていった。
氷が7割ほど融けた頃、アルトは水魔法を使って炎の壁を消し、更に次の魔法を使う。
「【炎造形】」
炎で鎖を形作り、まだ氷の残る剣大蛇の身体に巻き付けていく。火力を抑え、必要な箇所にだけ熱を与えるためだ。
そして、瞬く間に剣大蛇を覆っていた氷は融けてなくなった。ふぅと息を吐いたアルトは、皆の周囲の【安全地帯】を解除し、恐る恐る振り返って反応を伺う。
一部始終を呆気に取られてずっと見ていた一同は、しばしの沈黙の後――わっと歓声を上げてアルトに駆け寄った。
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