第58話 ギルマスに報告
「なあ、魔力は大丈夫そうか?」
飛んでいるアルトに肩を支えられながら、キースが不安げに問いかける。
キースが【飛行】を体験するのはこれが初めてなのだ。ただでさえ地に足がつかないことに対する不安がある。
その上、あれだけの戦闘の後なのだから、アルトの魔力切れによる落下を心配するのは無理からぬことだろう。
「うん。全然平気だよ。」
「そ、そうか。」
(無尽蔵かよ。)
【飛行】で急いで真っ直ぐに飛ぶと、ものの十数分で街の入り口が見えてきた。
「アルト、悪いが街の手前で降ろしてくれるか。」
「え、入り口まででいいの?」
「気持ちは嬉しいが、このままギルドまで飛んで行くと目立つだろう。」
キースの苦笑交じりの言葉に、アルトははっとする。
「あ、そうだった。急いでたからつい…」
地上に降りた一行は街の入り口へと向かい、駐在していた警備の若い職員に冒険者タグを見せた。
アルトがBランク冒険者であることに驚いた職員だったが、キースとは顔馴染みだったらしく、すんなりと話を聞いてもらえた。
依頼は達成したものの、途中で問題が発生したこと。
キースが毒攻撃を受けたこと。
ポーションで命の危機は脱したものの、痺れでまだ歩けないことを説明した。
「――というわけで、この街に滞在しているレシェンタという宮廷魔導士を呼んできてほしい。滞在先は…ここだ。今の状況も簡単に書いておいたから、見せれば伝わるはずだ。」
「わかりました。すぐに人を向かわせます。」
キースが書いたメモを受け取った職員は、大きく頷いた。
「アルトは、ギルマスに報告を頼む。俺は一人じゃ歩けないから、ここで待たせてもらうよ。なぁに、心配するな。レシェンタはああ見えて、光魔法が得意だからな…すぐに治せるさ。」
「うん、わかったよ。一応、こっちのカバンを置いていくね。テナ、キースをよろしく。」
アルトはテナの入ったカバンをキースに手渡しながら、小声でカバンの中のテナに話しかけた。
返事をする代わりにカバンから少しだけ尻尾を出し、ふりふりと振るテナ。
それから、姿を消したエメラが肩に乗っていることを小声で確認し、アルトはギルドへと向かって駆け出した。
◇
ギルドに到着したアルトは「ギルマスに急いで報告したいことがある」と受付で伝えた。
はじめは子供のお使いかと微笑ましそうにしていた受付の女性だったが、冒険者タグを確認するなり、血相を変えてギルマスを呼びに走った。
ギルマスは当初、初依頼の達成報告のためにアルトが興奮しているのだと思って呑気に構え、欠伸をしながら現れた。
しかし、アルトから感じる妙な緊張感と、なによりキースが同席していないことから、背中を嫌な汗が伝うのを感じたギルマス。
別室でアルトとエメラの話をひと通り聞いたギルマスは、想像の上を行く報告に眩暈を覚えた。
一瞬頭をよぎった“最悪の事態”ではなかったことに安堵したが、報告の内容が今回もぶっ飛びすぎなのである。
「ハハ、無茶苦茶だな。」
(キースの方は、レシェンタを呼んだのなら問題ないだろう。だが、問題はそれだけじゃ済まないぞ。たった二人で剣大蛇の討伐って…)
「えっと、一応証拠を持ってきているんですが…」
考え込んでいるギルマスの様子を伺いつつ、エメラに小突かれて遠慮がちに切り出すアルト。
「証拠?」
「はい。ただ…ちょっと、じゃなくてかなり大きいんですけど、ここで出しても大丈夫ですか?」
「ああ、構わない。見せてみろ。」
「わかりました。よいしょ…っと。」
ドサ、ドサ、ドサ……ゴトトン。
自身に【身体強化】をかけたアルトがカバンから取り出したのはもちろん、討伐したガルザ3頭と、氷漬けの剣大蛇の頭部だった。
「な……」
予想はしていたものの、実際目にするとやはり信じ難い光景。それに思わず言葉を失うギルマス。
「討伐の証拠に、頭だけは持ってきました。ただ、身体の方は氷漬けのまま戦った場所に残してきちゃって…どうしましょう?」
アルトの呼びかけに、はっと我に返るギルマス。
「あ、ああ。そうだな……さすがに放置はできないから、人を集めて回収に向かわせよう。報酬の清算もその後になるな。アルト、悪いが案内を頼めるか?」
「僕は大丈夫ですけど…えっと…」
「何だ?言い忘れや気がかりがあるなら、遠慮せずに言っていいんだぞ。」
目を逸らして口ごもるアルトに、これ以上何があるのかとドギマギする気持ちを隠しつつ続きを促すギルマス。
「その…やっぱりキースが心配なので、治療が終わってからでもいいですか?」
アルトの言葉に、ギルマスは心の中で安堵の息を吐いた。
「ああ、大丈夫だ。こっちも人を集めるのに時間がかかるからな。それじゃあ…1時間後に街の入り口に集合しよう。キースにもよろしく言っておいてくれ。」
「わかりました。」
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