第55話 信じてたから
「弱気になってごめん。もう大丈夫だよ。」
「ふふ、いい顔になったわね。」
先ほどとは見違えた様子のアルトに、安心したように笑みをこぼすエメラ。
「とにかく、今私たちにできることをしましょう。そうね…【浄化】や【治癒】の魔法を試してみたらどうかしら?」
エメラの提案で“使い手のレベル次第では毒や汚染を浄化することもできるらしいぞ”というキースの言葉を思い出したアルト。
「そうだね。じゃあまずは……【浄化】!」
アルトが唱えると、パアッと淡い光がキースを包み込んだ。
「んぅ…ん…」
光が消えると、呻きながらゆっくりと目を開けるキース。
「キース!」
「にゃあ!」
「キース…よかった。さっきより顔色も良くなったみたいね。」
心配そうに顔を覗き込んでくる三者の様子に、目を細めるキース。
「悪いな、皆…ヘマしちまった。」
「なんでキースが謝るのさ。少し待ってて…【治癒】!」
今度は先ほどよりも少々長い時間、淡い光がキースを包み込んだ。
「おー…随分楽になった。やっぱ凄いな、アルトの魔法は。」
キースはそう言いながら傷の塞がった左腕を見つめ、握ったり開いたりを数回繰り返す。そして立ち上がろうとしたものの、すぐにふらついて膝をつく。
「キース!」
慌ててキースに肩を貸すアルト。
「っとと…こりゃまだ毒で痺れてんな。」
「そんな…ごめんね。僕の【浄化】じゃダメだったみたいだ。」
自分の力の足りなさに、俯いて唇を噛むアルト。
「おいおい、ヘコむとこじゃないだろ。」
そう言ってアルトの頭をガシガシと撫で、ニカッと笑うキース。
「むしろ、アルトがポーションと魔法でここまで治してくれたから、俺は今こうして生きてんだ。ありがとうな。もちろん、エメラとテナも。」
名前を呼びながら順に視線を向けるキース。テナはそんな彼に寄り添い、すりすりと頭を擦り付ける。エメラは慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、その様子を見守る。
「キース…」
「ま、アルトなら助けてくれるって信じてたから、俺も無茶できたんだけどな。じゃなきゃ、毒持ちのAランク魔獣相手に囮役なんてごめんだ。」
信じてたから――この言葉で、アルトは胸が何か温かいもので満たされたような気持ちになった。
「身体にちょっと痺れが残ってるが、これくらいなら街に戻って治療を受ければちゃんと治るさ。」
「ちょっと痺れがって…一人じゃ立てもしないのに?」
腰に手を当てたエメラが顔をしかめながら問い詰めるが、キースは素知らぬ顔だ。
「もう死にかけでもないし、治るんだから問題ないって。大丈夫だよ。」
「…本当でしょうね?」
ふわふわと浮かびながら、疑わしげな眼差しを向けるエメラ。
「ああ。心配かけて悪かったな。」
「べっ別に…あなたを心配したわけじゃないわ。もしあなたに何かあったら、アルトは自分を責めちゃうんだからね。あまり無茶はしないでちょうだい。」
そっぽを向いて小言を言うエメラだが、キースの命のことも、アルトの心のことも、本当に心配していたのだろう。
そのことには気づいているキースだが、それには触れずに短く言葉を返す。
「ん、気をつけるよ。」
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