第5話 旅立ち
予定よりも早まったが、アルトは村を出る決意をした。
おばば様亡き今、この村に留まり続ける理由はもうない。おばば様も手紙の中で、アルトが村を出ることに賛成してくれていた。
アルトは森の隠れ家の中で、旅の荷造りを始めた。
干し肉や木の実などの食料、作り貯めた魔法石、おばば様に貰った本に手紙。その他にも、狩った動物の牙や毛皮などを、カバンに詰め込んだ。
おばば様から貰ったこのカバンには、物を沢山入れられるように魔法をかけてある。別の袋で何度か試してみたが、中に入れた物の重さを感じないようにするのは大変だった。
◇
「おばば様…僕、行くよ。今まで本当にありがとう。さようなら…は、響きが悲しいから好きじゃないんだったね。バイバイ!」
おばば様の墓前で最後のお別れをしたアルトは目元を拭い、家に向かって歩き出す。
このまま家族にも別れを告げて、村を出るつもりだ。
「父さん、母さん、兄さん…僕、この村を出ようと思うんだ。」
「…出て、どこへ行くつもりだ。」
心配するでも止めるでもなく、さほど興味もなさそうに尋ねる父親。
「詳しくは決めていないけれど、もうこの村に戻るつもりはないよ。」
「はっ!そりゃあよかった。穀潰しが減ってせいせいするよ!うちにはアーノルドさえいてくれれば十分なんだ。絶対に戻ってくるんじゃないよ!」
両親の反応は、アルトにとっては想定の範囲内だった。とはいえ、やはり自分はいらない子だったのかと、チクリと胸が痛んだ。
だが、これで後腐れなく出ていけると前向きに考え、踵を返そうとしたアルトの背中に、今度は兄が声をかける。
「おい、出来損ない!育てて貰った恩も返さずに出ていくつもりかよ!?」
アルト…ではなく、アルトの持っている大きな荷物を指差しながら、意地の悪い笑みを浮かべるアーノルド。荷物を置いていけ、ということなのだろう。
悲しいことに、兄の言葉もまた想定内だ。この強欲な兄は、わずかに与えられていたアルトの食事までかすめ取ろうとする、食い意地の張った男だったのだから。
アルトはテーブルに向き直り、無言でツカツカと歩を進める。
「な、何だよ!」
いつもは何を言っても無反応だった弟の予想外の行動に、たじろぐアーノルド。
「ほら、これで文句ないよね。」
そう言って、アルトは魔法のカバンとは別に持っていた袋を二つ、机にドサリと置いた。一方には干し肉や木の実が、もう一方には動物の毛皮が入っている。
この村では肉などめったに食べられないし、森の奥で採れる木の実は珍しくて手に入らないものばかりだ。毛皮の方は、売ればひと財産になるだろう。
いずれもアルトががんばって集めたものだが、自分に必要な分は確保してあるので問題ない。
袋の中身を見た強欲な兄と、意地悪な母親と、無関心だった父親は揃って目を丸くし、呆気に取られていた。
「君の言う“恩”は返した。これで僕らは他人だ……じゃあね。」
アルトは家族だった人達に別れを告げ、さほど思い出もない小さな家を後にした。
後悔は―――――ない。
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