第49話 買取り報酬
「――冒険者になるにあたって、説明は以上です。それと、こちらがアルトさんの冒険者タグと、初心者用の冊子です。タグは必ず首からかけておいてください。それと、タグを無くした場合は再発行に手数料がかかるのでお気をつけて。」
「ありがとうございます。」
淡々とした様子の受付の女性 から冒険者タグと小さな冊子を受け取り、キースの元へと戻ってくるアルト。
「よし、それじゃあ最後は買取り報酬の確認だな。疲れてないか、アルト?」
「ちょっと疲れちゃったけど、大丈夫だよ。」
アルトが疲れるのも無理はない。
テイマーと従魔の登録に関する説明、新人冒険者に対する説明、そしてBランク冒険者としての心構えと、朝から説明やルールなどを聞かされてばかりだったのだ。
おばば様から読み書き計算はひと通り教わっていたアルトだったが、こんなにも多くの情報を一気に詰め込んだのは初めてだった。
通常、買取り品の査定や支払いはギルドの買取りカウンターで行われる。しかし、査定するものが珍しい品の場合や支払いの金額が大きい場合、別室での対応となることもある。
今回はその両方であったため、二人はギルマスのいる別室へと呼ばれた。
「これが今回の買取り品と、価格の一覧だ。数に間違いがないか、金額に不服がないか、確認してくれ。」
そう言って差し出された書類に、よくわからないながらも目を通すアルト。そしてそれを横から覗き込んで、金額の大きさにぎょっとするキース。
「は?なんですかこの金額!?」
「声が大きいぞキース。」
ギルマスに指摘されて、慌てて口をつぐむキース。
「すみません、つい…」
そして未だに首を傾げて書類と睨めっこしているアルトに、キースは書類の見方をレクチャーする。
「とりあえずアルトは、魔獣や素材の名前や特性を覚えていかないとな。新人用の冊子…簡易版の図鑑が渡されたと思うが、あれにはこの周囲で見られる魔獣や薬草なんかの情報が載っている。よく読んで、頭に入れておけよ。」
「はい。」
「それでお前ら、どの依頼を受けるかはもう決めてあるのか?」
「いいえ、まだです。この後一緒に掲示板を見に行くつもりだったんで。」
キースの言葉を聞いて、よかったと呟きながら一枚の紙を差し出すギルマス。
「それじゃあ、この依頼を受けてみないか?」
「指名依頼ってことですか?」
指名依頼とはその名の通り、依頼主やギルド側が冒険者やパーティーを指名して依頼する仕事のことである。護衛任務や討伐任務など、強い信頼や確かな実力が求められる依頼が多い。
もちろん冒険者側には拒否権があるが、指名依頼は一般的な依頼よりも高額であるため、断る者は稀である。
「あー、ちょっと違うな。ただ、俺の独断でお前らが適任じゃないかと判断しただけだ。嫌ならもちろん断ってもらっても構わない。その時は通常通り、掲示板に貼り出すさ。」
ギルマスが提示したのは“ガルザ最低3頭の討伐依頼”だった。場所は隣町らしい。
「ガルザ?というか“最低3頭”ってどういうことですか?」
「それがな――」
ギルマスの話をまとめるとこういうことだった。
キースの報告をもとに調査してみると、このレカンタ周辺でもちらほら、ガルザらしい目撃情報や被害報告があった。
アルト達が遭遇したガルザの残党というか、仲間というか、その類だと思われる。
隣町の周辺で現在確認されているガルザは3頭。
実際はそれよりも多いかもしれない。
派遣した調査隊の一次報告によると、森の奥を縄張りとしていたガルザ達の群れが姿を消していたらしい。
原因はまだ調査中だが、何らかの理由でガルザの群れが散り散りになったと考えられる。
討伐対象である魔獣の数が定かでないため、【魔力感知】で魔獣の数を把握できるアルトに行ってもらえると心強い。もちろんパーティーメンバーのキースも一緒に。
アルトは記憶を辿り、キースとガルザの戦闘に出くわした時のことを思い出す。確かキースは「なんだってこんなトコにガルザの群れなんかが!?」と言っていた。
散り散りになった群れのうち、8頭もの群れに出くわしてしまうとは…キースも不運である。いや、アルトに助けられたから幸運というべきか。
「報酬はそこに書いてある通り、3頭討伐で依頼達成報酬。追加があれば1頭ごとに加算だ。隣町なら行って帰るのもすぐだろうし、アルトも一度戦ったことのある相手だ。初任務にはうってつけだと思うんだが…どうだ?」
そんな言い方をされたら断れないでしょう…と思いながらも、キースは真面目な顔で返事をする。
「俺は構いません。アルトはどう思う?」
「僕も大丈夫だよ。あ、エメラとテナはどうだい?」
アルトがカバンの中を覗くと、話を聞いていたらしいエメラとテナはにっこりと笑って返事をした。
「大丈夫よ。久々の冒険、わくわくするわ。」
「にゃあ!」
「よし、決まりだな。ギルマス、その依頼お受けします。」
「そうか、助かる。くれぐれも注意しろよ。」
依頼の書かれた書類をキースに渡しながら、ギルマスはこっそりと安堵の息を吐く。
「はい。それじゃあ、依頼受領の手続きをして…宿代の清算をしたら出発だな。」
「うん!」
「おっとその前にアルト、ちゃんと買取り報酬を受け取って行けよ?金額が大きいから、現金でなく振り込みでな。買取りカウンターでその書類と冒険者タグを見せれば、口座に振り込んでもらえるから。」
ギルマスの指摘に、キースとアルトは目をパチクリとさせ、あっと声を上げた。
「あ、忘れてた。」
「そういやそっちが本題だったな。」
「おいおい、大丈夫かよ。」
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