第44話 テイム
光が落ち着くと、アルトの手の甲の印は消えていた。
「あれ?さっきはここに…」
不思議に思ったアルトがテナの方を見ると、テナの真っ黒な額には銀色の印が残っている。角の突起をぐるりと囲むそれは、まるで模様のようでとても美しい。
アルトは慌ててテナを抱きしめ、その身体をさすりながら話しかける。
「テナ!テナ、大丈夫?痛くなかった?どこか変な所ない?ごめんね、僕なにもするつもりなかったのに、何か魔法が発動しちゃったみたいで…」
「にゃう。にゃ、にゃあ。」
心配するアルトを落ち着かせようと、アルトの頬を舐め、頬ずりするテナ。
「大丈夫…なの?」
「にゃあ!」
「よかったぁ!」
涙目でテナを抱きしめるアルトと、アルトの肩に乗ってポンポンとなだめるエメラ。
そして呆気に取られている大人三人。
「驚いたな。まさか従魔契約…テイムの瞬間が見られるとは。」
「あれがテイムですって?確か契約魔法が必要なはずでは…」
ギルマスの言葉に驚くダンテ。
「ああ、俺もそう聞いていた。だが見たろ、アルトの手の甲とテナの額の印。主と同じ印を額に持つのが、従魔の印だ。」
「ですがギルマス、アルトの手の甲の印は消えていますよ?」
隣の席からアルトの右手をじっと見つめるキースが異を唱える。
「今はそうだが、手に魔力を込めれば浮かび上がるはずだ。アルト、試してみろ。」
「はい……わぁ、本当に浮かび上がった!見て見て、テナと同じ印だよ。」
アルトが右手に魔力を込めると、手の甲にポウッと先ほどの印が浮かんだ。
それを嬉しそうにテナやエメラ、キースに見せるアルト。
その様子を見ながら、ポツリと零すダンテ。
「本当に彼は、何もかもが型破りですね。」
規律を重んじ、生真面目で融通の利かない彼――ダンテの口元には、微かに笑みが浮かんでいた。しかし、彼の零した言葉にも表情の変化にも、この騒がしい場では誰も気付かなかった。
少し待った後、パンパンと手を叩いて場を落ち着かせるダンテ。
「過程はともかく、従魔契約が完了したのであれば何ら問題ありませんね。」
「あ、そっか!改めて、これからよろしくね、テナ。」
「にゃあ!」
元気よく返事をするテナの頭を、アルトは嬉しそうに撫でる。
「では、アルト君の冒険者登録と同時に、テイマー登録と、一角黒豹のテナの従魔登録もしましょう。それから素材の査定と根回しと…忙しくなりそうですね。」
「あの、すみません。僕のせいで。」
おずおずと謝るアルトだったが、ダンテは小さく首を振った。
「君が気に病むことではありません。これが私の仕事ですので。それより、君にひとつ伝えなければならないことがあります。」
伝えなければならないこと――そう言われて、もしかして壊してしまった的の弁償とかだろうか、と不安になるアルト。
「…なんですか?」
「君が特別試験を受けた主な理由は、“目立ちたくないから”というものでしたね。」
「はい、そうです。」
思ってもみなかった質問に少し驚いたアルトだったが、素直に答えた。
「しかし…意図せずとはいえ破壊してしまった試験用の的、その年齢で新人Bランク冒険者という快挙、数年ぶりのテイマー登録、そしてあの素材の山。」
そう言ってダンテがチラリと目をやった先には、山ほどの魔獣の素材や木の実などが乗った机がある。
「可能な限り口止めはしますが…目立たないように、という君の望みは叶わないでしょう。申し訳ないですが、こればかりはどうしようもありません。」
申し訳ない、と言って深々と頭を下げるダンテと、恐縮して慌てるアルト。
ダンテの言う通り、どう考えてもギルド職員や冒険者の間でアルトのことは噂になるだろう。
「ああ、それなら大丈夫ですよダンテ試験官。目立ちたくないってのは、アルトが冒険者になるまでの話ですんで。」
慌てるアルトの代わりに、説明を買って出るキース。
「アルトの実力なら、勝手に名が上がっていずれ有名になるのは目に見えてる。だから“冒険者アルト”として有名になるのは問題ない…というか仕方ないと思ってます。ただ、一般人である間は目立つのを避けたかっただけで。」
「ああ、なるほど。承知しました。」
キースの言葉に納得したのか、大きく頷くダンテ。
「ただ、素材の買取り金額に関しては外部に漏れないようにお願いします。Bランクとはいえ新米冒険者が大金を持ってるなんて知れると、色々と面倒そうなんで。」
「言われずともそのつもりです。むしろ、冒険者ギルドが持ち込み素材の買取り金額を漏らしたことなどありませんよ。おおかた、浅はかな冒険者が自ら吹聴でもしたのでしょう。」
「おっと、こりゃ失礼。」
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