第40話 いつまで笑ってるんだ
「なるほど、これで合点がいった。」
「何がですか?」
何かに納得したようなギルマスの言葉に、キースが聞き返す。
「お前の報告だよ。“ガルザの群れが出たが討伐済み”と言う割に、何の証拠も提示しなかっただろう。いつものお前なら本体か耳か尻尾か、何かしら討伐済みの証拠を寄越すはずだ。」
一般的に冒険者が討伐完了の報告をする際は、運搬できる魔獣ならばその死骸をギルドに引き渡す。
しかし、魔獣の体躯が大きかったり数が多かったりして運搬が困難な場合は、耳や尾、角といった部位を切り取ったものを討伐の証拠として提出するのだ。
「今回はそれがなかったのが気になっていたんだが…ようやく腑に落ちたよ。正直、証拠さえあればダンテの説得にあんなに手間取らなかったのに、と思っていたからな。」
そう言いながらダンテとキースを交互に見るギルマス。
ダンテは腕組みをして、当然ですとばかりに澄ました顔をしている。
「あー…耳が痛いですが、それは仕方ないですよ。」
キースは頭をぽりぽりと掻きながら弁明する。
「本当は宿屋あたりでアルトにカバンから一頭ガルザを出してもらって、それを証拠として持参するつもりだったんですから。でもまさか、街に来てすぐギルマスと出会うとは思わなくて。それで今の今まで、出すに出せなかったんですよ。」
「おお、そりゃ悪かったな。これでもお前の帰りが遅いのを心配してたんだよ。」
「ま、アルトに助けられてなければお陀仏でしたからね。その心配もあながち的外れではないですけど。」
軽口を交わし合っていた二人に、ダンテが遠慮がちに割って入る。
「少しよろしいでしょうか。」
「ああ、どうした。」
「カバンそのものの有用性や価値もさることながら、これは…中身も相当なものですよ。」
「中身?」
ダンテは机の上の諸々を順に指差しながら、説明していく。
「ええ。分かる範囲でもCランクの斑熊に青翠狼の毛皮、それにBランクの白金鹿の毛皮と角…それから木の実ですが、貴重な薬の材料として高額で取引されているものもいくつかあるようです。」
ダンテに言われて、机の上の素材をいくつか精査するギルマス。その様子をドキドキしながら見守るアルトと、その両肩にちょこんと乗って同じように机の上を見つめるエメラとテナ。
「おいおいマジかよ…こんなもん一度に見せたら、査定の奴らが腰抜かしちまうぞ。」
「ええ。出処は隠すとしても、話題になることは避けられません。」
「あの…もしかして、狩ったり取ったりしちゃだめなものとかありましたか?」
驚愕の表情を浮かべる二人に、恐る恐る尋ねるアルト。
的外れともいえる質問に、一瞬キョトンとした表情を浮かべる二人。
そして三人共が予想通りのリアクションをしたことに、声を殺して笑うキース。
「いえ、そのようなことはありません。」
「ああ、その点は大丈夫だから安心しろ。ただ、珍しかったり貴重だったり、そういうものが多くて驚いただけだ。で、買い取り額は二人に半分ずつ渡せばいいのか?…おい、いつまで笑ってるんだキース!」
ギルマスに怒鳴られ、慌てて向き直り答えるキース。
「あー腹痛ぇ……っと、いいえ。10対0で全部アルトにお願いします。」
「おいキース、それはいくらなんでも甘すぎやしないか?」
てっきり折半か、よくて6対4くらいかと思っていた報酬を、10対0と言われて訝しむギルマス。
「妥当ですよ。これらの採取や討伐に関して、俺は一切手を出していません。というか、どれもアルトが一人でコツコツ貯めてきた素材です。ガルザの討伐にはちょっとばかし俺も噛んではいますが、結局仕留めたのはアルトですし。」
キースのもたらした新事実に、更に頭を悩ませるギルマス。
「これらの魔獣を単独で……嘘だろ。いや、もう疑うだけ時間の無駄か。やっぱりBランクじゃ実力に見合わないか。だがさすがにいきなりAランクは前例が…」
「おーい、ギルマス?なにブツブツ言ってるんですか。とりあえず、査定頼みますよ。その金でアルトの装備やら何やら揃えないといけないんですから。」
「ああ、わかった。冒険者タグの発行と同時に支払えるように手配しておくよ。」
キースに考え事を中断されたギルマスは、もうアルトのランクに関しては考えることをやめた。いずれすぐにランクを上げるだろうから、今あれこれ考えても仕方がないと割り切ることにしたのだ。
「ありがとうございます。それじゃ次の話ですけど…」
「まだあるのか。もう腹一杯なんだけどな。」
「同感です。」
驚き疲れた、もう勘弁してくれ、と顔に書いてある二人。だが、次の話も大事なことなので譲らず話を続けるキース。
「まだ序の口って言ったでしょう。えっと、この黒猫…」
「テナだよ。」
口を挟んだアルトに苦笑しながら、キースは話を続ける。
「そう、名前はテナっていうんですが……実は一角黒豹の子供なんです。」
「「は?」」
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